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【識者の眼】「『フキハラ』という日本の職場の病理」小野俊介

登録日: 2026.04.20 最終更新日: 2026.04.21

小野俊介 (東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)

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フキハラ(不機嫌ハラスメント)なる言葉が、メディアを賑わせている。不機嫌な表情や態度(舌打ち、ため息、無視等)で、職場・家庭の人々を苦しめること。部下・同僚だけでなく、上司が苦しむことも多い。

40年近いサラリーマン人生、数えきれぬほどのフキハラ被害を受けてきた。

私のかつての職場(お役所)は、控えめに言ってもフキハラ(とパワハラ)の巣窟だった。どの部署に異動しても、その手の困った人が、ごく少数だが必ずいた。医薬品の許認可の申請手続きに来る企業の方々に対する態度の悪さに、同僚の我々ですら気分が悪くなることがしばしばあった。

企業の方々が提出した資料を目の前で「これじゃダメだ」とビリビリ破り捨てる人。夕刻のオフィスに企業担当者が来訪しているのを無視して、マンガ週刊誌を読み続ける人。ヒアリング中にブチ切れて怒鳴り散らす人は、性別問わず相当数いた(今もいる)。

フキハラの人は、身内の職員にもむろん横柄である。私がおそるおそる「決裁お願いします」と決裁文書を差し出しても、こちらに顔を向けさえしない。イライラを同僚に態度で示したいのか、飲み終えた栄養ドリンクの空き瓶を、ゴミ箱にガッコーンとすごい音を立てて投げ込む人もいた。

お役所をまたぐフキハラもある。予算を担当するお役所に説明に行くと、不機嫌な担当者からしばらく無視される。我々の顔を見て、おもむろに机の引き出しから手鏡を取り出し、伸びたあごひげをピンセットで抜きはじめた人もいた。

大学・アカデミアのハラスメントも相当なものだが、諸般の事情により紹介はもう少し先にする。ご容赦頂きたい。

恐ろしいことに、フキハラの人々は組織で出世し、重要なポストに就くことが多い。上司はフキハラの人々を「難しい仕事をさばく有能な職員」と勘違いしていたり、フキハラに気づいていても「触らぬ神に祟りなし」と知らん顔をしていたりする。人事のお墨つきを得て、フキハラの人々の「不機嫌」という権力行使は、ますます激しくなる。

フキハラの人を「ぶん殴ってやろう」と思ったことは何度もある。が、決裁をもらって帰らないと困る私の上司、業界の方々(そして家族)の顔を思い出し、耐え難きを耐えてきた数十年だった。フキハラ被害を受けた企業担当者の中には、精神的に追い詰められ、出社できなくなった人もいる。

この手のハラスメントは日本独自ではない。海外にもemotional harassmentといった概念はある。が、上に挙げた例は、単なる職場内の非効率を超えた、構造的な非生産性を日本社会・経済にもたらしているはず。これが日本のドラッグラグの遠因だという確信が、私にはある。

我慢・沈黙していてよいわけがない。

小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)[フキハラハラスメント

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