2026年度診療報酬改定における主要項目のひとつとして、「人口の少ない地域・医師偏在対策等」が挙げられている。特に、若手医師が減少し医療提供体制の確保が課題となっている診療科において、医師の勤務環境・処遇改善に向けた取り組みを評価する診療報酬上の加算が新設された。
その中でも注目されるのが、「外科医療確保特別加算」である。「長時間かつ高難度な手術を実施した場合であって、対象診療科の医師が、当該手術を行ったときは、外科医療確保特別加算として、当該手術の所定点数の100分の15に相当する点数を加算する」こととなった。
本加算には、施設基準として、複数の要件が課されている。具体的には、「特定機能病院入院基本料又は急性期総合体制加算を届け出ていること」「対象となる長時間かつ高難度な手術を合わせて年間200例以上実施していること」「当該診療科の経験を5年以上有する常勤の医師が6名以上配置されていること」「チーム制又は交代勤務制を導入していること」「勤務間インターバル及び代償休息を確保すること」「地域の他の保険医療機関と、対象手術の実施体制及び術後フォローアップの体制等について、事前に協議を行っていること」「専門研修体制が整備されていること」などである。
これらの要件のうち、「年間200例以上」という基準は、いわゆるハイボリュームセンターへの症例集約を間接的に促す設計とも解釈できる。たとえば、診療点数が10万点(100万円相当)の手術を年間200件実施した場合、15%の加算により年間3000万円の増収となる計算であり、その恩恵は症例数の多い施設ほど大きい。
一方で、「勤務間インターバル及び代償休息を確保すること」といった要件は、医師の働き方改革とも整合的である。診療報酬によるインセンティブのみで抜本的改善に至るとは言いきれないが、一定の後押しとなる可能性はある。
さらに、「当該診療科の医師が行った対象手術件数に応じ、休日・時間外・深夜手当、当直手当等とは別に、当該加算額の100分の30以上に相当する手当を当該診療科の医師に支給(その8割以上を常勤医師に支給)しており、全ての医師に周知していること」も要件とされている。この点は画期的であり、従来問題とされてきた「診療報酬の増収が現場給与に反映されにくい」という構造に対し、一定の制度的対応がなされたと評価できる。
筆者はこれまで多くの外科医から、「業務負担の重さに比して給料水準が低い」との声を聞いてきた。今回の加算新設の背景には、外科系学会による継続的な働きかけがあったとされる。外科医の処遇改善を、診療報酬制度の中で後押しする試みと位置づけられるだろう。
なお、外科志望者の動向にも変化がみられる。一般社団法人日本専門医機構が2026年3月23日に公表した専門研修採用数によれば、2026年度の採用数は全体で9998人、そのうち外科は996人(約10%)であり、2025年度(863人)から133人増加している。
もっとも、「外科医療確保特別加算」の導入と、外科志望者数増加との因果関係は現時点では明らかではない。しかし、若手医師にとって、処遇は進路選択の重要な要素のひとつであり、一定の影響を与えている可能性は否定できない。
「診療報酬15%加算と医師への直接配分」という今回の政策は、一定の効果が期待される一方で、その実効性については今後の検証が不可欠である。仮に病院へのインセンティブ付与にとどまり、過酷な労働環境の改善が十分に進まなければ、外科医の離職や診療科離れを防ぐことはできない。若手外科医の採用数が増加しても、彼らが現場に定着し、外科診療に従事し続けるかどうかが、将来の外科医不足解消の鍵となる。
康永秀生(東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)[診療報酬改定][外科医療確保特別加算]