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【識者の眼】「後発医薬品シェア90%の時代になぜフォーミュラリ議論なのか?」坂巻弘之

登録日: 2026.03.13 最終更新日: 2026.03.13

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

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社会保障審議会(医療保険部会)は2026年2月12日、地域フォーミュラリ推進に向け、国および都道府県の取り組みを第4期医療費適正化基本方針に追記することを了承したとされる。ただし、厚生労働省(以下、厚労省)提出の部会資料は過去資料を並べたにとどまり、会議を傍聴していない者にとっては、この方針によって何を達成しようとしているのかが明確であるとは言いがたい。

資料の流れから類推すると、「経済財政運営と改革の基本方針2021」以降、「後発医薬品も含めた、医薬品の適正使用」のために「フォーミュラリガイドラインを策定し」たが、「導入は限定的」である。そこで後発医薬品の使用促進策としてフォーミュラリ推進が打ち出されている、と読める。すなわち、医療費適正化というよりも、フォーミュラリの普及、それ自体が目的化している印象を受ける。

フォーミュラリに関する議論は新しいものではない。既に「経済財政運営と改革の基本方針2015」には、費用面も含めた処方の在り方を検討する旨の記載があり、これは現在のフォーミュラリ概念に相当する。こうした議論を背景に、2016、17年度には厚労省の委託により、英・米・加・豪を対象とした調査研究が実施され、筆者も調査責任者として参加した。

調査から明らかなのは、フォーミュラリとは本来、公的制度でカバーされる医薬品の範囲を定める仕組みだという点である。たとえば英国では、国民保健サービス(National Health Service:NHS)でカバーされるフォーミュラリ(British National Formulary:BNF)が存在し、その仕組みの下に、BNFの範囲で地域・医療機関ごとに策定されるフォーミュラリが階層的に整備されている。医薬品政策の観点からは、日本の薬価制度も国レベルのフォーミュラリと位置づけられる。さらに英国では、フォーミュラリとは別に治療パスウェイ(pathway)として医薬品の使用順序を示し、経済性もふまえた選択順位を明確にしている。日本で議論されている内容は、むしろこのパスウェイに近い。

日本独自にフォーミュラリを定義すること自体は可能である。しかし実際には、定義の具体性を欠き、国内制度との整合性も十分に確保されてこなかった。これが、10年にわたりフォーミュラリが普及しなかった要因のひとつであろう。一方、後発医薬品の使用割合は全国平均で9割近くに達し、地域別にみても現行の医療費適正化計画の目標は達成されている。この状況で、今さらフォーミュラリ導入の必要性を強調することに、どれほどの合理性があるのか。

後発医薬品使用目標の見直しが議論される中、新たな数値目標設定の手段としてフォーミュラリが持ち出されているのではないか、との疑念も拭えない。過去の議論の経緯、国内外制度の実態、そして現在の到達点を正確にふまえた上で、政策議論の軌道修正を検討すべき段階に来ている。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[地域フォーミュラリ

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