トイレ問題が社会的関心を集めている。ある女性の行政書士が、駅のトイレで長い行列を体験し、退出時に掲示されていた「トイレ案内図」に目をとめたことが、本問題への関心の端緒となった。そこには、男性用トイレに小便器4基、個室3室が設置されている。一方、女性用トイレは個室4室のみであることが示されていた。多くの公共施設では、男女のトイレ面積はほぼ同等に設計され、形式的な「平等」は保たれている。しかし、利用時間や回転率の差をふまえれば、必ずしも「公平」とは言えない。
その後、この行政書士は、鉄道、地下鉄、空港、商業施設など706箇所のトイレを調査し、便器数は男性が女性の1.76倍に上り、9割以上の施設で男性用トイレのほうが便器数が多いことを明らかにした。数値として示された実態は、従来見過ごされがちであった構造的課題を可視化するものとなった。
この問題提起は社会的議論を喚起し、政策にも影響を与えた。2025年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(いわゆる「骨太方針2025」)には、“女性用トイレの利用環境の改善に向けた対策の推進”が明記された。これを受け、同年7月には女性用トイレの行列問題改善に向けた関係府省連絡会議が開催され、公共施設や商業施設におけるトイレ整備のあり方について、ガイドライン策定や改善策の検討が進められている。
一方で、今回の議論は、女性用トイレの行列問題に主たる焦点が当てられ、男性用トイレのあり方については十分な検討がなされているとは言いがたい。男性用トイレで行列が生じにくい背景には、小便器の設置によって利用回転率が高められてきたという事情がある。しかし、利用者同士は衝立程度で区切られているにすぎず、プライバシーや羞恥心への配慮という観点からみれば、この設計が最適かどうかは再考の余地がある。トイレ環境の「公平」を論じるのであれば、女性用トイレの課題解決にとどまらず、男性用トイレの設計や利用実態も含めた包括的検討が必要ではないだろうか。
ジェンダーをめぐる議論は、女性の不利益是正を起点に展開されてきた。その意義は大きいが、同時に、男性の抱える課題は相対的に可視化されにくいという側面がある。トイレの設計をめぐる今回の議論が示すのは、単一の視点にとどまらず、多様な立場と利用実態をふまえた検討の重要性である。
河野恵美子(大阪医科薬科大学一般・消化器外科)[外科医][ジェンダー]