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【識者の眼】「食料品の消費税ゼロの可能性とその影響」村上正泰

登録日: 2026.03.05 最終更新日: 2026.03.05

村上正泰 (山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)

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2026年2月に行われた衆議院議員総選挙は、自由民主党の歴史的大勝で終わった。選挙後の政権運営で争点の1つになるのが、食料品の消費税を2年間に限ってゼロにするかどうかという点である。公約では「今後『国民会議』において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速」するとしていたが、高市早苗首相はかなり前向きだと言われており、選挙後の記者会見では「夏前には中間取りまとめを行いたい」と述べている。

高市首相は、食料品の消費税をゼロにするのは、給付付き税額控除を導入するまでの間の措置だと説明している。給付付き税額控除の導入をめざすこと自体は妥当な方向性だと言えるが、はたしてそれまでのつなぎとして消費税減税は必要なのであろうか。

総選挙では、ほぼすべての政党が消費税の減税や廃止を訴えていたため、議論が深まらなかったが、消費税減税が声高に叫ばれるのは物価高対策のためである。確かに物価高に苦しんでいる家計があるのは事実であり、物価高対策は必要である。しかし、だからと言って消費税を減税すると、むしろインフレをいっそう助長しかねない。なぜなら、消費税減税は経済における総需要を増大させるからである。食料品の消費税をゼロにすることは、富裕層にも大きな恩恵をもたらす。供給制約やコスト増の要因を是正しなければ、インフレ下での需要刺激策は、物価高対策として逆効果になりかねない。家計に対する支援も、対象を絞り込む必要がある。

また、高市首相は、食料品の消費税をゼロにするために赤字国債を発行しないとも明言している。しかし、現時点では年間約5兆円とも言われる財源をどのように確保するのか、はっきりしていない。財源を確保できなければ消費税減税を行わないのか、その場合は赤字国債を発行するのかも不明である。さらに、今のところは2年間に限るとしているものの、2年後に元に戻せる保障もない。これまでも時限措置が恒久化した例は枚挙にいとまがない。昨今の政治的風潮を考えれば、なおさらである。減税・増税に伴う経済の変動も大きくなってしまう。

消費税収は年金、医療、介護、子育て支援の「社会保障4経費」の財源とされている。それでも財源が不足している中で消費税収が減少すれば、今後の財政状況次第では、社会保障に対する費用抑制圧力を強めかねない。他方で、不安定化する国際情勢や対米関係をふまえれば、防衛費の大幅増額なども不可欠になる。もちろん、物価・賃金の上昇に伴って税収が増加しているのは間違いない。その一部は歳出増に振り向けられるにしても、金利が上昇局面に転じた今、国債発行残高が累増している状況下では、財政健全化にもつなげなければならない。つまり、財政政策が中長期的にかなりのナローパスを歩まなければならないにもかかわらず、食料品の消費税ゼロを推し進めることは、政策運営の不確実性を高めることになりかねないのである。困難な現実を見据えた冷静な議論が求められる。

村上正泰(山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)[物価高対策][消費税減税

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