腕神経叢は,脊髄から分岐する第5・6・7・8頸神経根(C5~8)と第1胸神経根(T1)から構成される。腕神経叢損傷の原因には,オートバイ事故,転落などの外傷性のもののほか,手術中の不良体位,睡眠薬服用などによる意識障害,飲酒後の睡眠麻痺などが原因となる非外傷性のものがある。外傷性のものは一般的な末梢神経損傷とは異なり,刃物による鋭的損傷は稀で,ほとんどの場合,牽引による神経損傷である。特にオートバイ事故に代表される高エネルギー外傷では,神経根が脊髄から引き抜ける「引き抜き損傷」という重篤な病態がある。本稿では主に外傷性損傷について記述する。
▶診断のポイント
損傷範囲,損傷高位,損傷程度を正しく診断することが重要である。
・身体所見:上肢全体の運動と感覚を診察する。各筋肉の徒手筋力検査(manual muscle testing:MMT)を行い,感覚障害の範囲・程度,Tinel徴候の有無と部位を診察する。T1根の引き抜き損傷ではHorner徴候が認められることがある。
・麻痺型の分類:麻痺型はC5~6型,C5~7型,C5~8型,C8~T1型,全型に分類され,それぞれの支配筋に麻痺が認められる。C5~6型では肘屈曲と肩の麻痺が,C5~7型ではこれに加えて手関節伸筋・屈筋の筋力低下が認められる。C5~8型ではさらに手指伸筋の麻痺や手内在筋の筋力低下が認められる。C8~T1型では指伸筋・屈筋および手内在筋の麻痺が認められる。全型では肩以下の上肢が完全麻痺となる。
このほか,節後損傷として後束損傷(橈骨神経・腋窩神経の麻痺),外束損傷(筋皮神経・正中神経の一部の麻痺),筋皮神経損傷・腋窩神経損傷・肩甲上神経損傷など,末梢神経に分岐後の様々な高位で麻痺がある。
・損傷高位:神経根の後根神経節のどちら側で損傷が生じたかにより,引き抜き損傷(節前損傷)と節後損傷に大別される。
・損傷の種類:完全断裂と不全損傷にわけられる。不全損傷では自然回復可能なものがある。経時的評価が重要である。
【検査】
・画像検査:単純X線検査では頸椎,胸部,合併する骨折・脱臼が疑われる部位のX線検査を行う。頸椎横突起骨折,第一肋骨基部骨折や,胸部X線で横隔膜の挙上(横隔神経麻痺)があれば引き抜き損傷の可能性が高い。肩周囲筋の完全麻痺では肩関節の亜脱臼が認められる。かつては脊髄造影検査(および脊髄造影後のCT検査)によって頸椎の神経根嚢像が評価されてきた。しかし,近年はMRIが進歩し,水強調画像のMR myelography1)や拡散強調像により,神経根の連続性や根嚢像の評価が可能となっている。外傷性髄膜瘤があれば,引き抜き損傷の可能性が高い。
・筋電図検査:麻痺筋に対し,脱神経所見が現れる受傷後1カ月以降に行う。完全麻痺ではMMT0と,自動収縮が認められればMMT1と診断できる。経時的に行い,回復の有無を判断する。受傷後早期に自動収縮が認められれば良好な回復が期待できる。
