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【識者の眼】「COVID-19レプリコンワクチンに関する西村秀一氏の懸念に共感!」堀田 博

登録日: 2026.02.25 最終更新日: 2026.03.24

堀田 博 (神戸大学名誉教授、日本ウイルス学会名誉会員)

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本連載(No.5262)において、西村秀一氏が「COVID-19レプリコンワクチンは長期間にわたって体内に残存することはないのか?」という懸念を示された。その問題提起に強く共感し、本稿では筆者の考えを、現時点で得られている科学的根拠に基づいて述べたい。

現行のCOVID-19レプリコンワクチンは、審査結果報告書によれば、トガウイルス科アルファウイルス属に分類されるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)由来のレプリコン(自己複製型RNA)を基盤としている。このレプリコンには、人為的に2箇所の点変異が導入されている。1つ目の変異は、レプリコンの細胞障害性を低下させる、いわゆる弱毒変異であるが、同時にRNA複製効率も低下させる。一方、2つ目の変異は、RNAの複製効率を上昇させると記載されている。

この変異レプリコンをマウスに筋肉内接種した実験では、筋肉ならびに主要臓器・組織中のレプリコン量は経時的に減少し、接種後1カ月でほとんど検出されなくなったと報告されている。レプリコンが体内で長期間残存しないとする現在の判断は、主としてこのような短期間の動物実験結果に基づいている。

しかし一般的に、レプリコンは一定の条件下では必ず複製する性質を持つ。特に、他のウイルス由来スパイク蛋白質を発現するように設計されたアルファウイルス由来レプリコンは、インターフェロン(IFN)の作用が及ばない細胞集団において効率よく複製し、近隣細胞に伝播することが知られている。また、VEEV由来レプリコンは、IFN機能が保たれたマウスやラットにおいても、リンパ節で複製しやすい性質を示す。人においても同様の現象が起こる可能性は否定できない。

さらに重要なのは、VEEV由来レプリコンは複製過程で変異を起こしやすいという点である。したがって、接種後に体内で弱毒変異が強毒に復帰したレプリコンが生じ、それがリンパ節などで長期にわたり複製・伝播を続ける可能性も理論的には考えられる。その可能性を検証するには、予測される強毒復帰レプリコンをあらかじめ作製し、それを動物に接種して体内動態を詳細に解析する必要がある。

前述の通り、わが国の審査結果報告書には2箇所の点変異導入についての記載はあるものの、強毒復帰レプリコンを用いた検証実験に関する記述は見当たらない。欧州連合(EU)においてもヒトへの使用は承認されているが、その審査報告書においても同様に、強毒復帰を想定した実験データの記載は確認できない。また、当該レプリコンの詳細な設計や、動物実験における体内動態を示した査読つき学術論文も、PubMedなどの文献検索では確認できていない。そのため、強毒復帰レプリコンによる長期的リスクについては、科学的根拠に基づく十分な検証がなされているとは言いがたい。

新たなモダリティー(作用機序・様式)に基づく新規医薬品、しかも健康なヒトに対して広く使用される感染予防ワクチンの申請・承認にあたっては、当該分野の専門家に対する十分な情報公開と、多角的な議論に基づく慎重な審査が不可欠である。現行のレプリコンワクチンについても、あらためて専門家・有識者による検討と、透明性が高い情報公開が求められるであろう。

堀田氏のお話について

西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長)

堀田氏は、私が深く尊敬するウイルス学者である。2025年春、私は本連載において、当時大きな注目を集めていたレプリコンワクチンに関する素朴な疑問を提示し、それに科学的に答えてくれる研究者を求めた。一方、堀田氏は2025年秋の日本ウイルス学会学術集会において、レプリコンワクチンの問題点を鋭く突く発表を行っておられた。内容はあくまで純粋な科学的議論であり、決して反ワクチン的な主張ではない。その姿勢に私は強い感銘を受けた。

残念ながら、堀田氏の問題提起は多くの関係者に十分届いているとは言いがたい。COVID-19ワクチン接種率が以前より大幅に低下している現在においては、なおさらである。しかし、レプリコン技術はCOVID-19ワクチンにとどまらず、今後は、がんや稀少代謝疾患などへの応用も期待される重要な科学技術である。だからこそ、堀田氏の議論は、時代や疾患を超えた普遍性を持ち、私たちは真摯に耳を傾ける必要があると考えている。

堀田 博(神戸大学名誉教授、日本ウイルス学会名誉会員)[COVID-19][レプリコンワクチン

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