成人循環器領域では、心筋ストレイン解析や三次元(3D)心エコーなどの心機能評価が、診療ガイドラインにおいて推奨度の高い検査となっている。これらの心機能評価に人工知能(AI)を活用した技術革新が進んでいるものの、日常診療への浸透は必ずしも十分とは言えないのが現状であろう。医療機器の高額化という課題はあるが、普及が進めば価格が下がる可能性はある。一方で、新技術を診療に取り入れようとする医療者側の姿勢も影響していると考えられる。ガイドラインや検査技術がアップグレードされ続ける中で、日常診療とのギャップはむしろ広がりつつあるのではないかという懸念を抱く。
日本の新生児集中治療室(NICU)には、他国にはあまりみられない特徴がある。刻々と変化する新生児循環を、必ずしも心エコーを専門としない新生児科医がベッドサイドで評価し、きめ細やかに循環管理を行う診療文化である。この文化は、早産児・低出生体重児の高い救命率とも相まって、国際的にも注目されている。
全国34施設267名の新生児科医と協力した、早産児動脈管開存症に関する多施設前方視的研究(PLASE研究)では、心エコーに基づく個別化医療が、子どもたちによりよい未来を届けうる可能性を示した。一方で、心エコーは検査者の経験や技量に依存しやすく、測定値や解釈のばらつき、小さな赤ちゃんへの検査そのものの負担といった課題がある。こうした属人的要素を克服することが、チーム医療として循環管理の質を高めるために不可欠である。
心エコーの経験や技術の個人差という壁を越える手段として期待しているのが、AIを活用した心エコー解析である。筆者らは2012年からNICUにおいて、AI(機械学習)を活用した3D心エコーや心筋ストレイン解析の臨床応用を進めてきた。2023年以降は、先天性横隔膜ヘルニアに伴う肺高血圧症や早産児動脈管開存症において、両心室機能を短時間かつ非侵襲的に評価し、周術期の循環管理に活用できる可能性を、米国小児科学会/欧州小児科学研究学会の公式誌 Pediatric Research に報告し続けている。
特に重要なのは、新生児においてもAIを活用した3D心エコーや心筋ストレイン解析により、経験の浅い医療者を含めても安定した結果が得られる可能性を示した点である。AIが循環評価を標準化し、ばらつきを低減し、チーム全体で共有可能な情報へと変換した点に本質がある。ここでめざしている標準化とは、個人差を排除するために評価を単純化することではなく、AIの補助を受けながら、より精度の高い評価を安定して共有できる状態を指す。
AIは医師に代わって判断をくだす存在ではない。しかし、人間が持つ時間的・認知的・身体的な限界を補い、医療者それぞれの能力を引き上げる可能性を秘めている。成人医療で高い推奨度が与えられている検査を、体重400gというきわめて小さな新生児においても実現し、NICUに質の高い循環評価をもたらしうる。
AIの活用によって、経験や専門性の差を越えて高度な診療を実現・普及できる可能性を、新生児医療の現場から今後も問い続けていきたい。この問いは新生児医療にとどまらず、未来の医療に関わる多くの医療者と共有し、ともに考えていくべきものと考えている。
豊島勝昭(神奈川県立こども医療センター新生児科部長)[新生児医療][NICU][AI]