腸管からの各種栄養素(糖質,蛋白質,脂肪,ビタミン,ミネラル,水,電解質など)の吸収不良によって惹起される,種々の臨床症状を呈する症候群のこと。
▶診断のポイント
脂肪便,四肢の浮腫,低蛋白血症,低コレステロール血症がみられる。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
原発性吸収不良症候群と続発性吸収不良症候群に分類される。原発性の要因としてはセリアック病や無βリポ蛋白血症,乳糖不耐症などの選択的腸酵素欠損症(刷子縁膜病)などがある。続発性は,クローン病や短腸症候群,感染症(Whipple病,裂頭条虫症,糞線虫症など),アルコール依存症の粘膜傷害等による症候性吸収不良症候群と,腸疾患以外による消化障害性吸収不良症候群に細分類される。実臨床では,慢性膵炎等による膵外分泌障害,クローン病,胃全摘後・膵全摘後・短腸症候群等の手術後吸収不良症候群が多い。
以下の分類を用いて基礎疾患を鑑別し,それに応じた治療を行う。
【分類】
〈要因による分類〉
A. 原発性吸収不良症候群
1. 全栄養素の吸収障害
①セリアック病(セリアックスプルー,グルテン腸症,非熱帯性スプルー):食事中のグルテン(強力粉の成分で小麦,ライ麦,大麦に含まれる)によって生じる腸管の自己免疫性疾患。疎水性蛋白のグルテンは,腸管粘膜を通過し粘膜固有層で組織トランスグルタミナーゼによる脱アミド化を受けてグリアジンペプチドとなり,抗原提示細胞に認識される。抗原提示細胞により活性化したDQ2/8ヘルパーT細胞は,他のリンパ球を介してINF,IL-4,TNFなどの組織傷害性因子の放出を促し,粘膜の萎縮をきたす。白人の罹患率は約1%であるが,わが国では稀少疾患である。
②熱帯性スプルー:アフリカ,カリブ海,インド,東南アジアにて発生する。病因は不明で,毒素産生大腸菌の小腸への慢性感染によると言われるが,詳細は解明されていない。ビタミンB12欠乏性巨赤芽球性貧血を合併する。ちなみにスプルーとは脂肪性下痢を指す。
2. 一栄養素のみの選択的吸収障害
①先天性β-リポ蛋白欠損症(無βリポ蛋白血症):著しい低コレステロール血症および低トリグリセリド血症をきたす稀な常染色体潜性(劣性)遺伝疾患。アポB含有リポ蛋白であるカイロミクロン,VLDL,LDLが欠如しており,患者血中にアポBはアポB-48,アポB-100ともに認めない。脂肪吸収障害とそれによる脂溶性ビタミン欠乏症が授乳開始時より持続するため,適切な治療を長期に継続しないと不可逆的な眼症状,神経障害をきたしうる。
②選択的腸酵素欠損症(刷子縁膜病):刷子縁膜水解酵素の活性低下あるいは酵素欠損,吸収上皮細胞膜上の輸送担体の欠損。選択的二糖類分解酵素欠損症(ラクターゼ欠乏症,先天性スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症など),ジペプチダーゼ欠損症,エンテロキナーゼ欠損症など。
ラクターゼ欠乏症(乳糖不耐症)は,ミルクに含まれる乳糖(ラクトース)をグルコースとガラクトースに分解する小腸刷子縁膜酵素ラクターゼ活性が欠乏しているために,乳糖を消化吸収できず,著しい下痢や体重増加不良をきたす疾患である。原因には,先天性の酵素欠損(原発性ラクターゼ欠乏症)と二次性の酵素活性低下(原発性成人型ラクターゼ欠乏症)がある。原発性成人型ラクターゼ欠乏症は,生後一定期間ラクターゼ活性は高いが,授乳期を過ぎると活性が低下する病態で,白人には少ないが,アジア人,黒人には多いため,遺伝的要因と言われている。
B. 続発性吸収不良症候群
1. 腸疾患によるもの(症候性吸収不良症候群)
クローン病,短腸症候群・腸管バイパス術後,寄生虫疾患,Whipple病(グラム陽性桿菌Tropheryma whippleiの小腸粘膜への感染による),虚血性小腸炎(広範囲),薬剤性粘膜傷害(経口避妊薬,メトトレキサート,カルバマゼピン,フェニトイン等),アルコール性粘膜傷害(アルコール依存症)など。
2. 腸疾患以外によるもの(消化障害性吸収不良症候群)
①膵液・胆汁分泌不全:慢性膵炎,膵切除後,閉塞性黄疸など。
②胃・十二指腸疾患:慢性萎縮性胃炎,胃切除後など。
〈障害部位による分類〉
A.小腸性
吸収面積減少,粘膜異常,胆汁酸腸肝循環障害,小腸内細菌異常増殖症(small intestinal bacterial overgrowth:SIBO)など。
B.肝性
胆汁酸ミセル形成不全など。
C.膵性
消化酵素分泌不全と小腸内pH低下など1)。
