2003〜04年の1年間、私は中国・北京の外国人向け国際クリニックで家庭医として診療していた。
外国人向けの医療を提供すると、わかることがある。こういうセッティングでは、患者の健康指標は比較的良好なのだ。
多くの方は企業の駐在員とその家族、大使館職員、留学生、旅行者などである。高齢者は少ない。基礎疾患を持っている方もいるけれども、重症度はおおむね低い。人工呼吸器や透析を必要とする方は稀有だ。治療を要するがんのある方も少ないし、重度の心不全や肺気腫の方もほとんどいない。
患者の多くは、風邪や急性腸炎など、比較的軽い症状で来院する。高血圧や糖尿病、脂質異常などの慢性疾患も多い。メンタルヘルスも大事で、不安障害や不眠などもよく診た。渡航医学上のコンサルテーションも多く、高山病の予防や予防接種も多々提供した。
大多数の方は民間の医療保険に加入しており、そのサービスを受けてクリニックを受診する。もちろん、時には大病をすることもあり、敗血症や心筋梗塞で緊急搬送することもあった。しかし、そういうケースはむしろ稀であった。
翻って日本である。長期滞在をする外国人は健康保険への加入が義務づけられており、保険料を支払っている。もちろん、受診時の窓口負担もある。外国人の医療費は、高額療養費も含めて全体の約1%程度と言われており、決して高い額ではない。
日本に在留する外国人は、医療のフリーライダーではない。むしろ、保険料を支払い、医療制度の維持に貢献して頂いている。
医療費の約6割は65歳以上の高齢者に提供されている。外国人よりも圧倒的に、高齢者にかかる医療費のほうが高いのだ。
高齢者が若者よりも多くの医療を必要とするのは当然だ。「だから高齢者がいけないのだ」とか、「高齢者に医療を提供すべきでない」と主張したいのではない。
ただ、外国人をスケープゴートにするな、という点を再確認しておきたい。彼らは医療のコストを圧迫する主体ではない。
次に、世代間の不公平感を看過してはならない。高齢者を見捨ててよいとは思わないが、若者がそのコストを丸抱えにするには、日本の人口構造は逆ピラミッドすぎる。高齢者自身が、それ相応の負担を支払わなければ、日本の医療制度は維持できない。
自分ももうすぐ高齢者である。そのときに自分もそのコストを支払う覚悟をもって、自分の子どもたちに過度な負担を強いたくないという希望も込めて、そういう主張を申し上げたい。我が事として。
岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[医療費][外国人医療][高齢者医療]