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【識者の眼】「“AIカルテ下書き”が病院に入ってくる:いかに監督業務をまっとうするか」鍵山暢之

登録日: 2026.02.16 最終更新日: 2026.02.16

鍵山暢之 (順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学教室准教授)

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最近、興味深いニュースがありました。外来での会話や診療内容から、診療記録(カルテ)や紹介状などの文書を、生成AIが下書きする取り組みが、日本でも進みはじめているというものです。医師の働き方改革が進む一方、現場では診療そのもの以上に、記録・書類・説明文の作成に時間が吸い取られているのを実感されているのではないでしょうか。AIがこの部分を支える流れは、いよいよ“現実の医療”に入ってきました。

この場合、AIが価値を出しやすい領域は、実は「診断そのもの」よりも先に、要約や文書作成といった周辺業務にあります。下書きが整うだけで、医師は患者さんと向き合う時間を確保しやすくなります。海外でも、電子カルテ周辺での生成AI活用は、現実的な用途として検証が進められています。

私自身、先日、日本国内のある大学病院で、この仕組みをかなり本格的に導入している現場を見学する機会がありました。率直に言えば、その品質の高さには驚かされました。記録の体裁が整っているだけでなく、要点が適切に整理され、文章としても十分に実用に耐えるレベルに達していました。これを目の当たりにすると、「医療職がカルテを書かなくなる日」は、決して遠い未来ではないと感じます。

しかし、さらに意外だったのは、現場では、まだこのシステムを使っていない人のほうが多い、という点でした。AIはカルテやサマリーなど、様々な場面で長く緻密な文書を作成してくれますが、他人が、ましてAIがつくったカルテをチェックすることほど、つまらない作業はありません。しかも、生成AIがつくりだす文書の95%以上はもっともらしく、一見して問題がない文章である一方、稀に誤りや不適切な表現が紛れ込んでいます。これをすべて精読するのは、忍耐を要する作業です。しかし、医療においては、たった一文の誤記が診療の意思決定や説明責任に影響しうるという現実があります。

では、どうするべきでしょうか。私は「どのように監査をわかりやすくするか」という設計と、仮に誤りが残ってもダブルチェックが働く仕組みを用意することが重要だと考えています。たとえば、AIが生成した部分を明示し、変更履歴を残す。重要項目(診断名、薬剤、禁忌、アレルギー、検査値など)を自動でハイライトし、確認を促す。さらに、運用上の監査(監督)体制を整え、誤りが起きた際に原因を追えるようにする。こうした仕組みがあって初めて、「便利さ」と「安全性」は両立します。

日本は資源も労働力も限られています。だからこそ、AIで効率化できる部分は積極的に効率化し、人間が担うべき「診療の核心」に時間を使うべきです。ただし、そのためには、生成物に責任が伴うことを皆が自覚し、監督できる仕組みと文化を同時につくっていかなければなりません。AIが病院に入ってくる今、問われるのは技術の性能だけでなく、私たち医療者の“監督能力”そのものが1つの技術になっていくのだと思います。

鍵山暢之(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学教室准教授)[ヘルスケアAI][カルテ下書き監督責任

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