「ドーピング」と聞くと、筋力増強や競技成績向上を目的とした意図的な行為というイメージが強いかもしれません。しかし、近年の日本におけるドーピング違反では、禁止薬物であることを知らずに服用してしまった“うっかりドーピング”が占める割合が高くなっています1)。こうした“うっかり”の服用を避けるためには、我々医療従事者も、どの薬が禁止薬物に該当するのかを詳しく知っておく必要があります。
たとえば、現在日本で市販されている「総合感冒薬」の多くには、「プソイドエフェドリン」や「メチルエフェドリン」などのエフェドリン類が配合されています。これらは中枢神経に興奮作用をもたらすため、ドーピング禁止薬物に指定されています。また、エフェドリン類は、「麻黄(マオウ)」などの生薬にも含まれている点にも注意が必要です。
さらに、「β遮断薬」には心拍数を抑制したり、震えを軽減したりする作用があります。この作用は、“恐怖心”に打ち勝つことが重要なスキージャンプ2)や、指先の細かな動作が勝敗を左右する射撃3)などの競技で有利に働くことがあります。そのため、これらの一部競技では、「β遮断薬」も禁止薬物に指定されています。
「利尿薬」や「プロベネシド」は、競技成績を直接的に向上させるものではありません。しかし、薬の排泄を促進することで、禁止薬物の検出を困難にし、ドーピングの証拠隠滅に用いられる可能性があるとして、いずれも禁止薬物に該当します。
意外な例としては、貧血治療に用いられる『マスチゲンS錠』に含まれる「硫酸コバルト」や、のど飴として一般的な『南天のど飴』に含まれる生薬「南天(ナンテン)」の中の「ヒゲナミン」なども、禁止薬物です。
このように、禁止薬物を含む薬は医療用・一般用を問わず多く存在します。そのため、ドーピングに関する専門知識を持つ「スポーツファーマシスト」などと連携し、選手・関係者への説明・助言を的確に行い、“うっかりドーピング”による不幸な違反を少しでも減らしていくことが大切です。
【文献】
1) 浅川 伸:薬誌. 2011;131(12):1755-6.
2) Videman T, et al:Med Sci Sports. 1979;11(3):266-9.
3) Kruse P, et al:J Appl Physiol(1985). 1986;61(2):417-20.
児島悠史(薬剤師/Fizz-DI代表)[薬剤師][ドーピング][禁止薬物]