60年ごとに訪れる『丙午』。2026年の年頭にあたり、本誌面を借りてご挨拶申し上げます。読者の皆さまのご健勝とご多幸を心より祈念申し上げます。いろいろな角度から語られる丙午ですが、強力なエネルギーをもとに停滞を打ち破り、変化を推進する“飛躍の年”という見方もあります。その変革と発展という観点から、本稿では現在のわが国の病院運営の状況を1つの岐路ととらえ、今後を展望したいと存じます。
さて、2025年下半期に某オンライン調査で、「過去1年で『入院の必要性が低い患者』を受け入れたことがあるか?」に対して「45%の医師が『ある』と回答」という結果が紹介され、さらにその理由として「病院管理側からの指示」が最も多かった、と説明されていました。ここで言う、『必要性が低い』という定義には少なからず議論の余地がありますが、受診者側の事情(たとえば独居や複雑な家庭環境など)から入院診療による対応を強く希望するケースが想定される一方、病床利用を一定程度確保し病院運営における経営的視点を重視する病院側の事情があるでしょう。件の調査から現場では後者を意識する度合いが高まっていると類推されます。
病床利用率(または病床稼働率)は、病院運営の根源的な指標であり、一般的に医業収益の大半を入院収益が占めることを考えれば、管理者の視点において病床利用率の安定的確保が第一義的に位置づけられているのは自然な流れとも言えます。入院という入口を広げ、退院という出口を絞り、その結果として病床利用率を高く維持するという図式、現在のわが国の多くの病院が病院運営の基本戦略に据えているということです。この現状を批判的にとらえるべきなのか、それとも病院運営SDGsの一方略として肯定的に受け止めるべきなのか。現場を采配する立場の1人としては正直申し上げて回答に窮するところです。
医療のあり方には、本来の社会貢献や社会保障としての役割と同時に、組織運営の視点、特に収支をタブー視しない(むしろ中心的に扱う)風潮が強まっています。デリケートな課題ではありますが、広義の医療倫理と経営理念、その両立に苦慮する『わが国の病院運営』は、従来の固定的な観念や戦略だけでは乗り切れない岐路に立っていると言えるでしょう。関わる各ステークホルダーの描くシナリオを類推しつつ、病院現場でどう取り組むべきか、そこに病院総合診療医(ホスピタリスト)への期待が生じると思えてなりません。
これから連載形式でその中身を論じてまいります。本稿は序章として問題提起にとどめますが、次稿はまず病床利用率(あるいは病床稼働率)の望ましい目標値について、病院総合診療医(ホスピタリスト)の位置づけとともに考察してみたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
田妻 進(日本病院総合診療医学会理事長、JR広島病院理事長・名誉院長、県立二葉の里病院顧問)[病院運営][病院総合診療医][ホスピタリスト]