2025年が過ぎ、いよいよ2040年が視野に入ってきた。今後は高齢化が進み、85歳以上の人口が増加する一方で、生産年齢人口は減少し、2040年には医療や介護の担い手が約100万人不足すると予測されている。その解決策のひとつとして、業務の効率化と生産性向上を目的とした医療DXの推進が重要と言われている。
当院は、少子高齢化と人口減少が全国に先行して進む地域に所在する150床のケアミックス病院である。軽度急性期から包括期、慢性期の患者に対応し、在宅医療や施設診療も行っている。当院におけるデジタル化の取り組みは、2005年の電子カルテシステム導入から始まった。その後、秋田大学医学部放射線科との遠隔画像診断システム構築、医療介護情報共有化システム導入、秋田大学医学部とのテレビカンファレンスシステム導入、常勤医師のモバイル端末を利用した電子カルテ参照システム導入、AI問診システム導入、胸部X線AI診断支援システム導入などを行ってきた。また近年は、今後を見据え、秋田県が実施したオンライン診療実証事業にも参加した。現在は、電子カルテ音声入力システム導入や、生成AIを活用した会議録・サマリー作成などを検討している。
これまで様々な取り組みを行ってきたが、すべてが業務の効率化や生産性向上に直結したかという疑問も残り、いくつかの課題を感じている。1つは、病院全体としてITリテラシーが高くないことである。システムを導入しても十分に活用できず、軽微なトラブルで業務が停滞することもあった。そのため、電子カルテなどの情報システムの運用・保守・管理を担う医療システム管理士を採用し、職員教育を行いながらITリテラシー向上に努めている。
もう1つは費用面の課題である。導入時には国や県の補助事業を活用したものの、その後の維持・更新費用は病院にとって大きな負担となっている。特に電子カルテシステムは導入・維持・更新に多額の費用がかかり、病院経営を圧迫している。ここ2年間は、人口減少に伴う患者数減少で医業収益が横ばいとなる一方、人件費上昇や材料費高騰により医業費用が増加し、次回の電子カルテ更新が従来通り可能か、不透明な状況である。
厚生労働省では、比較的安価に導入可能な標準型電子カルテを開発中とのことであり、早期に地域医療現場で活用できることを期待している。また、医療DX推進には導入費用だけでなく維持・更新費用も必要であるため、導入時の補助制度に加え、維持に対する診療報酬上の評価をお願いしたい。
今後の地域医療を考えると、医療DX推進は避けて通ることができない。一方で、医療は人と人とのコミュニケーションで成り立つものであることを忘れてはならない。効率性のみを追求し、「ひとの心」を蔑ろにする医療であってはならないと考える。ポスト2025年、医療DX推進とともに、「心のこもった温かい医療」を実践していきたい。
小野 剛(市立大森病院院長、全国国民健康保険診療施設協議会会長)[医療DX][ITリテラシー][温かい医療]