2023年から始まった当院の新病院その場移転計画だが、2025年12月をもって、3期にわたる工事のうち2期工事までが終了した。これで旧病院の医療機能はすべて新病院に移転できたこととなる。同時に、8名まで収容可能なERが完成し、病棟では病室ごと、また区域ごとの陰圧管理が可能となった。ゾーニングもコホーティングも容易である。もともとの病院は築60年以上であったことから、まさにHey! Say!(平成)JUMPである。
新病院の稼働に合わせ、当院ではマスク着用ルールを刷新した。基本的には、患者も職員もマスク着用は任意とした。感染症が疑われる患者と接する場面や発熱外来、処置の際にはマスクの着用を必須とし、職員のみが利用するスペースをはじめ、多くの場面ではマスクの着用を求めないというルールで統一した。患者のマスク着用についても、ウイルス感染が明らかな場合や発熱外来では必須とする一方、それ以外は推奨にとどめている。
この方針を決めるにあたり、「マスクを外して大丈夫なのか」「他の患者にマスクをさせろというクレームがでないか」という声は当然あった。正直に言えば、私自身も少し悩んだ。医療機関は安全側に倒すほうが楽である。一律に「全員マスク着用」としておけば、説明は不要で、責任もあいまいにできる。しかし、それは本当に医療的に正しいのだろうか。
コロナ禍を経て、私たちはマスクの有効性と限界の両方を学んだ。感染リスクが高い場面では、マスクは今なお重要な感染対策である。一方で、リスクが低い空間においてまで一律にマスク着用を義務化する医学的根拠は乏しい。仮にリスクを半分にできるとしても、確率8%のリスクと、確率0.08%のリスクを相手にするのでは、得られる効果はまったく異なる。
スタッフルームで談笑しつつ昼食をとり、食後に黙ってマスクを着用する光景は、どこか不自然で、働く側の不便さも無視できない。今回の見直しで大切にしたのは、「ゼロか百か」ではなく、「場面に応じた判断」である。患者と接する医療行為の場面、特に感染予防が重要な場面では、これまで通りマスクを着用する。発熱外来や感染症対応では、患者にもマスクの着用をお願いする。一方、職員のみの空間では、マスクを外して会話ができる環境を認める。感染対策と働きやすさの両立を図ったつもりである。
マスク着用を任意にすることは、実は「ゆるめる」ことではない。むしろ、「考える感染対策」への移行だと考えている。症状があれば着用する、流行期には強化する、必要な場面では確実に守る。その判断を現場にゆだねるということは、医療者一人ひとりの責任を重くすることでもある。
新病院、そして新年という節目に、あえてこの選択をした。建物が新しくなっても、医療の本質は変わらない。患者を守り、職員を守り、そして無駄な負担を減らす。マスクを外すかどうかではなく、なぜ着用するのかを考え続ける医療機関でありたいと考えている。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[感染対策][マスク][医療の本質]