先日、「医師のキャリアはもっと、自由でいい。」をテーマに、多彩なバックグラウンドを持つ医師たちが集うカンファレンスに、登壇者の1人として参加する機会を得た。起業家、弁護士、医系技官など、医業の枠を超えて活躍する14名の医師が一堂に会した光景は、まさに時代の転換点を象徴するものだった。
筆者は長年にわたり、女性の視点を軸にキャリアを築いてきた。その歩みが、既存の枠組みに収まらぬものとして、いまの時代には新鮮に映ったから、登壇の機会が与えられたのかもしれない。
いま社会は、『キャリア3.0(自律的にキャリアを築く新しい働き方)』の時代へと舵を切りつつある。「王道ではない」と、かつて揶揄されてきた筆者の歩みが、先進的なキャリアモデルとして受けとめられはじめているのは、キャリアの多様性が社会に受容されつつある証左でもある。
一方で、外科医のキャリアは、依然としてはしご型・ピラミッド型の構造が色濃く残っている。外科専門医制度のグランドデザインは3階建て方式で、1階が日本外科学会専門医、2階が消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、乳腺外科、内分泌外科の6つのサブスペシャルティ、3階が肝胆膵外科高度技能や内視鏡技術認定などの高次専門医である。とりわけ高次専門医の取得は狭き門で、外科医としての到達点のひとつと位置づけられている。日本内視鏡外科学会の評議員の約7割が技術認定医であることからも、そのプライオリティの高さがうかがえる。
かつては「女性は時間がかかっても、男性と同じキャリアをなぞるのがよい」と語られることも多かったが、近年、こうした主張を学会で耳にする機会はほとんどなくなった。さらに、2024年、日本消化器外科学会は「消化器外科の明るい未来を達成するためのロードマップ」を公表し、「多様な価値観や人生観、働き方を尊重し、男女の均等な活躍を支援します」と明記した。
理念としては画期的な一歩である一方、実際のアクションプランでは、それに呼応する具体策は十分とは言いがたい。評議員選出にクオータ制が導入されたものの、選考基準の中心は依然として業績評価であり、「多様性」をどう評価に反映させるかは今後の課題として残されている。
これからは、「業績」や「専門医取得」に加え、地域医療への貢献、医療政策に関わる社会活動、多様性の推進、次世代育成といった「見えにくい価値」にも光を当てる評価指標が求められるだろう。多様な人材がもたらす新たな視点や発想は、医療の質を高め、組織の持続可能性を支える力となる。医療界はいまこそ、キャリアの自由度と柔軟性を保障し、多様な働き方を正当に評価する新しい仕組みづくりに向き合う必要がある。
河野恵美子(大阪医科薬科大学一般・消化器外科)[外科医][キャリア3.0][多様性]