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【識者の眼】「中小病院の果敢な挑戦」草場鉄周

登録日: 2026.01.19 最終更新日: 2026.01.19

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

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2025年度補正予算が国会を通過し、病院は1床当たり19.5万円、無床診療所は1施設当たり32万円の支給が決定した。これは、物価や賃金の上昇に対する当面の手当である。また、2026年度診療報酬改定では、診療報酬本体が3.09%増額されることが決まった。内訳は、賃上げ対応が1.70%、物価対応が1.29%、通常改定分が0.25%で、ここから適正化による0.15%の減額が行われる。2024年度改定の0.88%増と比べると、全体としては大幅な増額である。ただし、賃上げ・物価対応分を除くと0.10%の増額にすぎず、何とも言えない数字とも言える。

総じて見ると、若干息をつく余裕が生まれた医療機関も多いが、今後のさらなるインフレ傾向を考えると、決して気を抜ける状況ではないという印象である。海外にも例があるように、物価や賃金の上昇分が毎年自動的に報酬に連動するシステムを導入できないものかと思う。現在は1点10円だが、たとえば3%の物価上昇であれば、1点10.3円とするような考え方である。政治折衝によるパワーゲームもある程度は必要だが、どうしても医療側が自己の既得権益を維持しようとしている構図に見えてしまうのが残念である。

さて、知己の、ある中小病院が現在、果敢に改革に取り組んでいる。地域密着型で数十年の歴史を持つ民間病院であり、長年、内科・小児科を中心としつつ、専門医療にも強みを持つ病院として、整形外科や耳鼻咽喉科などの専門医を出張医としてまねいてきた。しかし、地域の高齢化に伴い、総合診療による外来・入院診療、さらには在宅医療への取り組みを徐々に強化し、地域ニーズに対応する中で、限られた経営資源をどこに振りわけるかという岐路に立たされている。

世間では、大規模な急性期病院が高度専門医療や救急に特化する流れが進んでいる。その中で、当該病院の経営陣は、そうした病院の受け皿となるコミュニティ病院としてのあり方に、生き残る道筋を見出している。しかし、現場の医師や看護師の反発は大きい。慣れ親しんだ専門診療、特に手術や手技の機会が失われることで、存在意義を感じられなくなる専門職は少なくない。ただし、医療者の自己実現を優先すれば、場そのものが失われかねない。苦渋の決断ではあるが、ここで歯を食いしばり、苦しくも正しい道を選択するしかないだろう。私自身は、経営陣にエールを送っている。

30年間のデフレを抜けた先に待っていたのは、コロナによる極端な需要減と反動としての需要増、そして急激なインフレであった。この激変する環境によって、医療機関が先送りしてきた課題が、それぞれの形で露出しているのが現在の局面であるように感じる。医療機関が、その規模や機能に応じて地域ニーズに応えていくことが正解であろうが、その正解を実現する道のりは、曲がりくねり、上りも下りも容易ではない。この病院の今の有り様を見て、私はそのことをひしひしと感じている。今まで愚直に汗をかいてきた地域密着型の医療機関が、1つでも多く救われることを期待したい。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療

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