検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「防災庁に期待する『国内クラスター』の実装─『調整』を国家機能に」稲葉基高

登録日: 2026.01.16 最終更新日: 2026.02.21

稲葉基高 (ピースウィンズ・ジャパン空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”プロジェクトリーダー)

お気に入りに登録する

能登半島地震で痛感したのは、被災自治体が「被災者でもあり指揮本部でもある」という現実です。保健医療福祉の領域では調整本部が機能しはじめた一方で、物流・住居・飲料水と衛生(WASH)など医療以外の領域では、官民が同じ状況認識を共有し、役割分担を決めるための「調整の器」が十分に整っていませんでした。その結果、現場は支援を受けるだけでも疲弊し、貴重な資源の重複や空白を生むという状況が生じました。

防災庁に求めたいのは、資機材や部隊を増やすこと以上に、「調整を制度として積む」ことです。要点は3つあります。

第一に、国内版クラスター(分野別の調整セル)を制度化することです。保健医療福祉を起点に、物流、住居、WASH、栄養・食、教育へと段階的に拡張し、発災直後から「誰が窓口で、誰が意思決定し、何を共有するか」を共通仕様として定めます。被災自治体の主権と意思決定を最優先に置き、外部は「前に出る」のではなく「横で支える」設計とすることが鍵になります。

第二に、官民連携を「善意の動員」から「契約と訓練」へ移すことです。平時から自治体職員と民間リエゾンの登録制度を整え、守秘・安全管理・保険・費用弁償・撤収基準までを標準協定として整備しておく。これにより、受援調整の負担を最小化し、支援の質も担保できます。行政支援の専門人材プール、すなわち研修を受け、共通言語で働ける人材を育てることも欠かせません。

第三に、共通状況図(common operating picture)を支えるデータ基盤を整備することです。最小限のデータを短い周期で集約・可視化し、意思決定につなげます。ITは「導入」ではなく「運用」が本番です。演習と事後検証を反復し、重要業績評価指標(KPI:初動48時間の配置決定時間、重複支援の減少、情報更新頻度など)を用いて改善を継続します。

最後に、防災庁の初年度ロードマップとしては、①保健医療福祉・物流・WASHの三領域で国内版クラスターの試行運用を開始する、②自治体─民間の標準協定と登録制度を整備し、年度内に複数地域で合同演習を実施する、③共通状況図の最小データセットと共有手順を定め、災害時に「迷わず動く」運用設計まで落とし込む─この3点を優先すべきだと考えます。

防災庁がめざすべきは、現場の頑張りを前提にしない体制です。「調整」を国家の中核機能として実装できるかどうかが、次の大災害において、被災自治体の負担と被災者の不利益を減らせるかを左右します。制度をつくるだけで終わらせず、訓練と検証を回しきれる実装力こそが、防災庁に最も期待したい点です。

稲葉基高(ピースウィンズ・ジャパン空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”プロジェクトリーダー)[災害医療][防災庁国内クラスター

ご意見・ご感想はこちらより


1