診察室で、患者さんやそのご家族から「スマートフォン(スマホ)を使っていると認知症になりやすいのでしょうか」と質問されることがある。背景には、ベストセラー『スマホ脳』(新潮社)や、メディアで頻繁に取り上げられる「スマホ認知症」という言葉の影響がありそうだ。膨大な情報入力が脳を疲弊させ、記憶力や判断力を低下させると指摘されている。
しかし、最新の知見や論文を整理すると、スマホという機器そのものが「悪」なのではないことがわかる1)2)。問題の本質は「使い方」にある。鍵となるのは、「受動的使用」と「能動的使用」の違いだ。おすすめ表示される動画をぼんやりと眺め続けたり、目的もなくSNSなどをスクロールし続けたりする「受動的使用」は、脳を使わない時間となりうる。
これに対し、自ら知りたい情報を検索する、地図アプリで経路を調べる、あるいはメッセージアプリで文章を考えて送る、といった「能動的使用」は、明確な目的を持って指先と頭を使う行為である。このプロセスは脳の前頭前野を刺激し、認知機能を維持する効果が期待できる。
このように「受動的な視聴」が脳によくないという前提に立つと、ひとつの矛盾が見えてくる。テレビ視聴についてだ。長時間にわたり画面を漫然と眺めるという点において、テレビは受動的なメディアの代表格である。過度なテレビ視聴が認知機能の低下に関連するという研究報告も存在する。それにもかかわらず、テレビ番組で「スマホ認知症」への警鐘は鳴らされても、「テレビを見続けると認知症になる」といった特集が組まれることはほとんどない。デバイスがスマホかテレビかという違いよりも、情報の受け取り方が、受け身かどうかが脳への影響を左右するということだろう。
特に高齢者にとって、スマホは社会との接点を保つ利器になりうる。社会的孤立は、認知症の大きなリスク因子である。スマホを「怖いもの」として遠ざけるのではなく、能動的に使いこなし、コミュニケーションの道具にすることこそが、現代における有効な予防策となる。
こうした考えに基づき、高齢者が具体的にどのようにスマホと付き合えば脳にプラスになるのか、その実践法をまとめた拙著『脳にいいスマホ 認知症をスマホで予防する』(サンマーク出版)を上梓する。単なるデジタルデトックス論を超え、スマホを認知症予防のパートナーにするための具体的な視点を提案している。診療現場での生活指導や、自身の生活を振り返る一助として頂ければ幸いである。
【文献】
1)Wu YH, et al:Gerontol Geriatr Med. 2019;5:2333721419844886.
2)Jang H, et al:Alzheimers Dement (N Y). 2021;7(1):e12209.
内田直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック院長)[認知症][受動的使用][能動的使用]