最近、医療関係者が口を開けば、経営難のことばかりが話題に上る。2025年11月26日に公表された「医療経済実態調査」によると、2024年度の一般病院の損益率は▲7.3%で、約7割が赤字となっている。他方、一般診療所を見ると、医療法人の損益率は4.8%だが低下傾向にあり、赤字も4割弱にまで増えている。改めて指摘するまでもなく、こうした厳しい経営状況の最大の原因は、診療報酬が物価・賃金の上昇に追いついていない点にある。診療報酬の大幅増額を求める声が相ついでいるのは、当然のことである。
他方で、医療提供体制改革も待ったなしだが、経営状況が厳しい中では改革の取り組みもままならず、効率化を求めるのは慎重にすべきといった声まで一部から出ている。はたしてそれは適切な考え方であろうか。確かに、医療機関の再編・統合を行っても、経営改善の見込みが立たなければ、ますます再編・統合を躊躇してしまう。しかし、診療報酬の底上げを行って経営危機から医療機関を救っても、人口動態や疾病構造の変化に起因する問題に対応できなければ、先行きは厳しいままである。地方を中心として、これからの医療に求められるのは「秩序ある撤退戦」である。
言うまでもなく、人びとがそれぞれの地域で安心して暮らしていく上で、医療は不可欠な要素である。したがって、撤退戦であっても、用意周到に秩序だって進められなければならず、一方的な切り捨てがあってはならない。しかし、人口減少社会において、撤退戦自体は避けられないのである。
医療機関の集約化や機能の見直しは時代の要請である。しかし、経営状況が安定していたときには危機感が乏しく、再編・統合の必要性が叫ばれながらも、取り組みに広がりを欠いていたのが実態である。むしろ、危機感の高まっているときにこそ、医療提供体制改革を強力に進める必要がある。
経営危機の中でこそ変革が進むというのは、多くの産業でみられる現象である。産業構造や機能が大きく異なるため同列には論じられないが、たとえば金融業界では、1990年代半ばから2000年代前半にかけて、不良債権問題の影響により金融機関の経営が急激に悪化し、経営破綻も相ついだ。国有化や公的資金の注入により金融安定化を図る一方で、金融システム改革が行われ、業界再編も進んだ。経営危機に喘ぐ事業体を単に救済するのではなく、変革への方向づけを適切に組み込む必要がある。
診療報酬は医療提供体制改革の重要なツールであり、改革の方向性に沿ったメリハリが不可欠である。しかし、患者数が右肩上がりの時代とは異なり、診療の対価である診療報酬で撤退戦を誘導するのは難しい。診療報酬点数はキャピタル・コストの評価も含め設定根拠が不明確であり、施設・設備整備の費用については補助金などの枠組みも組み合わせる必要がある。
2025年度補正予算でも医療機関への支援が強化されたが、コロナ禍以降、医療機関経営において補助金の役割が高まっている。医療機関の再編・統合を後押しする方向で、補助金のあり方についても見直しが求められる。
村上正泰(山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)[医療経営][医療提供体制][診療報酬]