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【識者の眼】「みんなでつくる小児医療の未来─寄付文化を創造したい」豊島勝昭

登録日: 2026.01.09 最終更新日: 2026.01.09

豊島勝昭 (神奈川県立こども医療センター新生児科部長)

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2019年、 地方独立行政法人である神奈川県立こども医療センターの新生児集中治療室(NICU)は、新生児の命を救うだけではなく、家族全体を支え始める場をめざして増床とリニューアルを行った。しかし財政難の自治体病院にとって、高度医療機器の購入や家族の療養環境を整えるための資金確保は大きな課題だった。寄付の必要性は理解されていたものの、「日本には寄付文化が根づいていない」という不安もあった。

日本の小児医療には、人手不足や過重労働に耐えて働き続ける文化が残っている。一方、海外では寄付が広く集まり、高度医療の充実、人材育成、研究開発、患者家族支援などが“社会全体の力”で支えられている。日本でも同じ流れをつくりたいと考え、病院事務職員や患者家族とともにNICUアンバサダーを立ち上げ、SNSやイベントを通して寄付を呼びかけた。

2018年には、周産期医療センターの「クリスマス・ウィッシュリスト」を公開した。スタッフが「これがあれば、こんなケアができる」「ご家族にこんな時間を届けられる」といった願いを込めてAmazonに希望品を掲載したところ、想像以上に反響があり、物品が次々に届いた。小児医療が社会とつながっていると実感でき、スタッフにとっても大きな励ましとなった。この取り組みは院内に広がり、2025年には7年目を迎え、ほかの小児病院にも波及している。

NICUリニューアルには約2000万円の寄付が集まり、帝王切開後の母親が人工呼吸器管理中の新生児を安心して抱けるリクライニングチェアを全病床に導入したほか、成人用ベッドやソファを備えた家族滞在型NICU個室を日本で初めて実現した。寄付の多くは全国のNICU卒業生の家族からであり、その姿は「このビジョンが未来に必要だ」という強いメッセージとなり、さらに支援が広がった。寄付で整備した医療機器を用いた研究成果は国際誌にも掲載され、寄付は不足を補うだけではなく医療の未来を切り拓く力にもなりうることが示された。

現在、全国の小児科は財政難に直面し、クラウドファンディングも増えている。小児医療の寄付文化は、確実に育ちつつあるが、「行政が負担すべき」という声も根強い。しかし、公的資金と寄付は対立するものではない。公的資金は標準医療を支え、寄付は療養環境の改善や新しい治療・研究など“未来への挑戦”を後押しする役割を持つ。

減税を望む声が大きい今でも、クリスマス・ウィッシュリストからの寄付は多く集まる。各地の小児医療が目標を明確に示し、ふるさと納税のように寄付先を選べる仕組みが広がれば、支援はさらに増えるはずだ。療養環境の改善や子どもたちの笑顔が「見える化」されれば、寄付文化はより根強いものになる。

未来の小児医療は、医療者だけではつくれない。多くの人々とともに寄付文化を育て、よりよい医療を子どもたちに届けたい。

豊島勝昭(神奈川県立こども医療センター新生児科部長)[新生児医療][NICU寄付文化

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