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【識者の眼】「介護職員の人手不足問題」康永秀生

登録日: 2025.12.22 最終更新日: 2025.12.27

康永秀生 (東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)

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介護職員の人手不足問題は、今に始まったことではない。1つの原因は低賃金である。これまで政府は、介護職員の賃金上昇を目的に、主として介護報酬への上乗せという形で事業所を支援してきた。具体的には、2009年に「介護職員処遇改善交付金」が始まり、2012年に「介護職員処遇改善加算」へ移行。さらに2019年には勤続年数の長い職員を対象とした「介護職員等特定処遇改善加算」が創設され、2022年には賃上げを目的とした「介護職員等ベースアップ等支援加算」が加えられた。そして2024年にはこれら3つの加算が統合され、新たに「介護職員等処遇改善加算」として再編された。

厚生労働省の「令和6年介護従事者処遇状況等調査」によれば、常勤の介護職員の月平均賃金は2018年の30万970円から2024年には33万8200円に上昇した。しかし、介護職全体の平均賃金は、全産業の平均賃金と比べて依然として乖離がある。労働組合の日本介護クラフトユニオンによる発表では、2024年7月時点の介護職員の基本給は平均26万5711円であり、産業全体の平均33万200円を6万4489円下回っていた。賃金は確かに少しずつ上がってきたものの、全体の賃金上昇スピードのほうが速く、その差はかえって広がっている。

現政権は発足早々、「『強い経済』を実現する総合経済対策」を打ち出し、その中に介護職員の賃上げも含まれている。厚生労働省は通知を発出して、2025年度補正予算における「医療・介護等支援パッケージ」および「重点支援地方交付金」での支援を示した。それによれば、「令和8年度介護報酬改定の時期を待たず、人材流出を防ぐための緊急的対応として、賃上げ・職場環境改善の支援を行う」とのことである。具体的には、物価高騰への対応として、介護職員を対象に半年間、月1万円の賃上げを補助する案が盛り込まれている。しかし、こうした対策は、「ないよりはまし」といえども、根本的な改善にはほど遠い。

介護職員の賃金問題が解消しにくい背景には、介護保険制度上の構造的な問題がある。介護報酬は、医療の診療報酬と同様、保険料と公費で支えられており、社会保障費全体の抑制を意識すれば、大幅な報酬引き上げは難しい。また、介護分野ではアルバイトやパートといった非正規職員の割合が高く、それが平均賃金の低さにつながっている。介護の仕事は十分に専門的であるにもかかわらず、医療職などと比べ専門性への評価が十分ではない面もあるのかもしれない。

しかし、人手不足の原因は賃金だけではない。賃金改善に加え、業務の効率化も不可欠である。たとえば、ICTや介護ロボット導入の検討も進めるべきであり、シニア層などの潜在的な労働力の活用、あるいは外国人介護人材の受け入れ拡大など、多様な人材活用の道をさらに模索する必要がある。

介護職員の人手不足は、医療業界にとっても対岸の火事ではない。医療サービスと介護サービスは連続しており、もし介護サービス提供の機能不全が進めば、その影響は必ず医療側にも波及するだろう。医療と介護が連携し、この問題への議論を深め、解決に向けた取り組みを進めることが重要だと考える。

康永秀生(東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)[経済学][介護職人手不足

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