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FOCUS_Digest:症例から学ぶBPSDの効果的な薬剤調整

登録日: 2025.12.10 最終更新日: 2025.12.10

宮内倫也 (可知記念病院精神科)

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可知記念病院精神科
宮内倫也
2009年新潟大学医学部卒業。名古屋大学医学部附属病院,刈谷病院を経て,2015年から現職。著書に『ジェネラリストのための向精神薬の使い方』(日本医事新報社)など。
私が伝えたいこと
◉認知症を有する患者の“困った症状”にある背景をまずは考慮する。心理的な背景であれ医学的な背景であれ,それを想定し仮説とする努力を怠らない。
◉暫定的な背景に即した薬剤治療やケアを行う。しかし,我々が想定した背景はあくまでも仮のものであり,適宜修正する柔軟性を持つこと。
◉臨床現場では,薬剤が効果を示したかどうかの判断は本人や周囲の主観的評価によるが,一応の目安を共有しておくとよい。
◉一般的に使用量は必要最小限をめざし,副作用を正しく“副作用”と認識すること。副作用を“症状”と誤認しては,治療が治療にならない。
◉薬剤の中止時期は,判断が非常に難しい。症状が安定した際には3~6カ月前後で減量中止を考慮するが,実際には継続せざるをえない場合も多々ある。

❶ BPSDとは言うけれど

認知症を有する患者が興奮/焦燥を示した際,治療者が行動・心理症状(be-havioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)と考えたくなるかもしれない。しかし,それらの症状をきたす疾患が数多くあるのは論ずるまでもなく,認知症だからと言って鑑別をおろそかにしてはならない(1)。ただし,鑑別疾患の中にはもともと有していたBPSDと併存したり悪化させたりするものもあるため,“それ”を治療することで完全に症状がなくなるといった教科書的な結果にならないことも,残念ながら多い。

「我々が遭遇している症状は本当にBPSDなのだろうか」と立ち止まり,上述の身体疾患/精神障害然り,患者の置かれた心理的状況然り,症状の背景を考えるべきである。そして,それぞれに応じた薬剤治療やケアを試みる。これは当たり前のことなのだが,認知症という枕詞がつくと軽視されがちになるのも事実である。もちろん,その“背景”は暫定的なものであり,仮説にすぎない。つまり更新の余地を十分に残すべきであり,暫定的な背景に固執することほど愚かなことはないだろう。

薬剤療法とケアの分断
薬剤治療もケアに含まれうるのだが,一般的には(対立を煽るかのように)区別されているため,ここでもそれに従った。

❷ BPSDに対する基本的な理解

BPSDはいくつかの因子にまとめることができる。アルツハイマー病を対象にした試験ではhyperactivity(興奮/焦燥,脱抑制,易怒性),affect(抑うつ,不安),psychosis(幻覚,妄想),apathy/vegetative(アパシー,食行動異常,夜間行動異常)に分類できると報告しており1,本稿はそれに準じ,中でも代表的な症状をピックアップする。これら症状は患者のみに原因があるわけではなく,患者,介護者,それを取り巻く環境,その間から聞こえてくる不協和音なのだと,まずは理解したい(2)。

しかし,そうであっても薬剤を必要とする場面は非常に多いだろう。薬剤治療を“悪”とする風潮は依然として拭えないのだが,それは裏を返せば介護者に対して呪いにもなる。たとえばユマニチュードはメディアで扱われた際,以下のように紹介された2

“「見つめる」「話しかける」「触れる」「立つ」を基本に,“病人”ではなく,あくまで“人間”として接することで認知症の人との間に信頼関係が生まれ,周辺症状が劇的に改善するという。「入浴のたびに大声を上げていた認知症の母から『ありがとう』と言われた」「寝たきりの祖父が歩くことができた」など,家族からは驚きの声も寄せられ,在宅ケアに活かそうという取り組みも始まっている”

ユマニチュード自体を否定する気は毛頭ないが,その効果が上記のようにあまりにも強調されると,BPSDを示し続ける患者を抱える家族は「患者を人間として扱っていない」と言われる危険性を孕んでいるのである。抜き差しならない状況に陥ると,良い変化は生まれにくくなる。しかし,薬剤を使用することによってそこに小さな風穴でも開けることができれば,状況は好転する可能性がある。薬剤の使用を“悪”と断定することは簡単で一定の支持を集めるだろうが,BPSDが改善しない責任を介護者に押しつける残酷な行為もまた簡単になされるということを,治療者は忘れてはならない。実のところ,心理社会的介入が抗精神病薬の使用を減らせるとは明確に言いがたいとも指摘されている3

❸ ニューロンの脱落を知る

BPSDに限らず,認知症への薬剤治療の臨床試験はアルツハイマー病を対象にしているものが多い。しかしながら,それをすべての認知症に置換可能なわけではなく,たとえば前頭側頭型認知症はセロトニン作動性ニューロンが早期から脱落する一方,コリン作動性ニューロンは比較的保たれる。そして,アルツハイマー病やレビー小体型認知症でさえもその進行は一様ではなく,いくつかのサブタイプにわかれる。脳血管障害は多くの認知症に認められるが,損傷部位や程度は様々であり症状に多くの色を添える。以上から,変性を受ける脳領域や呈する症状は,病名で固定されるものではないことがわかるだろう。

脱落ニューロンの差異と薬効
5-HT系の変化が主である前頭側頭型認知症では,コリンエステラーゼ阻害薬は空振りに終わることが多い。

(1) 代表的な神経伝達物質作動性ニューロンの投射先

このような限界はあるが一定の知見は集積されており,それを活かしてBPSDへの薬剤選択は基本に立ち返りたい。すなわち,ドパミン(DA),セロトニン(5-HT),ノルアドレナリン(NA),アセチルコリン(ACh)のうち,どの神経伝達物質を動かせばよいのか,である。

まずは,それぞれの神経伝達物質のニューロンが主にどの脳領域に投射されるのかを見てみよう(3)。

DA作動性ニューロンは中脳の腹側被蓋野や黒質から大脳皮質や腹側~背側線条体に投射する。DAは予測誤差の計算に携わり,報酬であれ嫌悪であれ“目を惹くこと(salience)”を強調し価値判断と動機づけを促し,さらには目的指向性行動そして習慣性行動に関与する。ほか,視床下部から下垂体に投射しプロラクチンの分泌を司り,中脳から視床下部に投射する経路もある。5-HT作動性ニューロンは縫線核から,NA作動性ニューロンは青斑核に代表される脳幹から,ACh作動性ニューロンは背外側被蓋核や脚橋被蓋核や前脳基底部から,それぞれ脊髄や脳の広範な領域に投射する。それらは睡眠と覚醒,自律神経活動,記憶,注意,衝動制御,感情などに関与するが,神経伝達物質の個性としていくらかの強弱が認められ,それを薬剤選択の際に考慮する。なお,5-HTはその受容体が実に様々なニューロンに発現しており,作用する部位によってその働きはかなり異なる。ACh作動性ニューロンは介在ニューロンとして基底核に存在しその働きの調節を行い,さらに大脳皮質の抑制性GABA作動性介在ニューロン上にはα7nACh受容体やM1受容体などが発現し,覚醒や感覚ゲーティングに関与している。

精神医学における新たな視点:自由エネルギー原理の可能性
予測誤差については“自由エネルギー原理”を学習するとより理解ができる。自由エネルギー原理は精神医学でも注目を浴びており,『脳の大統一理論』(岩波書店)は読みやすい入門書であろう。
脱落ニューロンと症状の多様性
感覚ゲーティングとは天然のノイズキャンセリング機能だと思っておいてよい。

(2) 脱落ニューロンの差異

ここで,いくつかの認知症における脱落ニューロンの差異を表にしてみよう(1)。もちろん病期によって異なるが,早期に脱落するもの,そしてより特徴的なものを挙げた。異常蛋白の脳内への波及は同一疾患においても多様であり,それが症状のバラエティにつながることも忘れてはならない。また,脱落するのであればそのニューロンの働きが落ちると考えたくなるが,実は複雑であり代償機構や相互作用も考えなければならない。たとえば,あるニューロンAが脱落しても,それを抑制するニューロンBがより脱落することで,結果的にニューロンAが興奮することもある。次の項目では,それも説明しながら薬剤について考えてみよう。

❹ 治療薬の選び方,使い方

BPSDに対して治療薬を考慮する前に,身体疾患や薬剤性による症状を除外する。そして治療に難渋した際には,まずは双極症や注意欠如・多動症(ADHD)など精神障害をもともと有していたかどうかを,本人や介護者になるべく聞いておきたい。今の精神症状はそれらによる可能性も十分にあるのだ。病歴が定かでないことも実に多いが,治療薬選択の際の“アタリ”をつけるにも役立つことがある。次に,可能であれば脳波検査を行いたい。アルツハイマー病を有する患者の脳波でてんかん様活動が認められた場合,抗てんかん発作薬の使用で認知機能の低下を遅らせることが報告されている4。また,前頭部のてんかん様活動は興奮/焦燥と関連しているという報告もある5。その際はやはり抗てんかん発作薬が治療薬となるだろう。そして,便秘や疼痛にも気をつけたい。これらによる苦痛が“精神症状”として表現されることがある。

このあとは…(1) psychosis(幻覚,妄想), (2) hyperactivity(興奮/焦燥), (3) affect(抑うつ,不安), (4) apathy(アパシー)それぞれについて,「発症機序」と「薬剤選択」の詳細な解説が付きます。

筆者の個人的経験も加味された
貴重な内容です!

出しっぱなしはダメ!経過を追おう

❺ 投与後の評価と副作用

(1)投与後の評価

治療を開始したら,その経過を追わなくてはならない。薬剤が効いているかどうかは臨床試験であれば評価尺度を用いるが,臨床現場では患者本人や周囲の人々や診察室での主観的評価となることが実際であろう。ただ,評価が漠然としすぎていては改善もとらえにくいため,「せめてここが良くなってくれると助かる」といった具体的なものに焦点化し,その改善度合いを目安にしてみる。当たり前の内容だが,治療開始からのフローを下図にまとめた(12)。

(2) 投与後の副作用

副作用が投与初期ではなくやや遅れてから出現する場合もあるため,常に気をつけておくこと。以下にそれぞれの薬剤の代表的な副作用を見ていくが,頻度の低いものについては添付文書などで確認されたい。なお,副作用が認められた際は減量中止が大原則である。その副作用を副作用と気づかずさらに薬剤で対処する,そして副作用を軽減するために新たな薬剤を追加する,といったことは混沌とした処方内容につながりかねないので推奨しない。たとえば,ガランタミン16mg/dayで興奮/焦燥の副作用が生じたにもかかわらず,それを“症状”と考え,リスペリドン2mg/dayを使用して抑え込もうとし,今度はそれによる錐体外路症状を抗コリン薬のビペリデン3mg/dayで止めにかかる,といった処方はもはや何をしたいのかわからない。

遅発性副作用に注意
“副作用は忘れた頃にやってくる”と覚えておこう。
副作用への薬剤投与
コリンエステラーゼ阻害薬の作用を抗コリン薬で消してしまうようなことがないよう,副作用を正しく“副作用”と認識することが重要である。

各薬剤の代表的な副作用

抗精神病薬

今回挙げた抗精神病薬は,D2受容体阻害,H1受容体阻害,M受容体阻害,α1受容体阻害を大なり小なり有し,それらによって錐体外路症状,過鎮静,起立性低血圧,食欲増加,高プロラクチン血症(アリピプラゾールとブレクスピプラゾールは高プロラクチン血症を生じにくい)が一般的に認められやすい。これらの合わせ技で,転倒や骨折や誤嚥なども生じる。アリピプラゾールとブレクスピプラゾールはアカシジアを特に認めやすく,またD3受容体パーシャルアゴニスト作用によって衝動制御障害が稀に生じる。ほか,抗精神病薬は一般的に心血管系イベントが高齢者で生じやすいことに注意を要する。スルピリドは“胃薬”として内科で気軽に処方されるが,高齢者では50mg/dayなどの少量でも高プロラクチン血症や錐体外路症状を生じやすい。これら抗精神病薬は,頻度は低いものの悪性症候群を起こすことが有名である。

アカシジアの特徴
「静座不能」と訳され,身体がそわそわして落ちつかなくなる。焦燥との鑑別が求められる。
DA作動薬

D2/D3受容体アゴニストであるプラミペキソールは嘔気,便秘,食欲低下,不眠/眠気,ふらつき,ジスキネジア/ジストニアなどが認められ,稀だが突発的な睡眠が有名である。ほかには,やはりD2受容体アゴニスト作用によって精神病症状や躁症状が,D3受容体アゴニスト作用によって衝動制御障害がもたらされる。

SSRI三環系抗うつ薬

抗うつ薬のSSRIは嘔気,下痢/便秘,頭痛,不眠/眠気,性機能障害が一般的に認められやすい。開始時や短期間での増量時にセロトニン症候群を起こすことがあり,悪性症候群との異同は以下に示しておく(6)。投与初期や増量時に焦燥を煽ることがある一方,高用量の長期投与ではアパシーをもたらす。これら以外に,アカシジア,振戦,歯ぎしりといった運動症状も認めることがあり,見逃されやすい。血小板の5-HTトランスポーターを阻害することで易出血性を起こすことがあり,特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗凝固薬や抗血小板薬との併用でそのリスクが上昇するため,可能であれば解熱鎮痛目的ではNSAIDsでなく十分量のアセトアミノフェンを優先したい。高齢者では稀に低Na血症を認めることがあり,非特異的な症状のため「うつが悪化した」と誤解されてしまいかねない。

ノルトリプチリンは三環系抗うつ薬であり,SSRIに認められやすい嘔気や嘔吐が少ないという利点を有する一方,抗コリン作用による口渇が出現しやすく,NA再取り込み作用による尿閉,血圧上昇,頻脈がより特徴的である。

コリンエステラーゼ阻害薬

コリンエステラーゼ阻害薬では,当然のことながらACh作動性の副作用が多く,嘔気,下痢,消化管出血,食欲低下,徐脈,失神などが一般的である。精神症状では特に興奮/焦燥をもたらすことがあるため,注意深い使用が求められる。ほか,AChとDAのバランスを崩すため錐体外路症状が起こりやすく,悪性症候群も稀ながら生じる。

抗てんかん発作薬NMDA受容体阻害薬

抗てんかん発作薬ではカルバマゼピン,ラコサミド,バルプロ酸,ラモトリギンを紹介したが,カルバマゼピンは皮疹,薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS),血球減少,肝腎機能障害,ふらつき,聴覚異常,複視など非常に多くの副作用を認めるため,慎重な使用が望まれる。また,CYP1A2を誘導することでも有名である。ラコサミドはカルバマゼピンの副作用が軽度になったものと考えるとよい。バルプロ酸は肝腎機能障害,血球減少,体重増加,倦怠感,ふらつき,振戦が多くみられる。ラモトリギンはとにかく皮疹に要注意であるが,ほかには頭痛や肝機能障害や消化器症状が一般的である。眠気をもたらすこともあれば,逆に賦活しすぎて興奮/焦燥に向くこともある。

シナプス外NMDA受容体阻害薬のメマンチンは過鎮静,ふらつき,肝機能障害,便秘が一般的であるが,稀に痙攣を誘発し,興奮/焦燥を認めることもあるため,気をつけておきたい。

NA調節薬

α1受容体阻害薬であるプラゾシンやα2A受容体作動薬であるグアンファシンはふらつき,眠気,低血圧,徐脈が一般的である。NA再取り込み阻害薬のアトモキセチンは,NA系の賦活による副作用が目立ち,明確に食欲が落ち,ほかに嘔気や腹痛などの消化器症状,頭痛,血圧上昇,頻脈,排尿困難などがある。

そのほかの薬剤

ほかにはアロプリノールとシロスタゾールを本稿では紹介したが,アロプリノールは皮疹,DIHS,血球減少,肝腎機能障害が有名であり,シロスタゾールは頻脈,頭痛,易出血性,血球減少などが認められる。

ここにも著者の「こだわり」あり

❻ 漢方薬の選び方

(1)認知症と漢方的病態

漢方薬について詳しく述べると切りがないため,簡潔にとどめる。

まず,認知症ではどのような漢方的病態に結びつくのかを図示してみよう(13)。高齢になることで人間は“枯れて”くるため,基本的に“気血両虚”となる。認知症は神経変性疾患であり,さらに脳血管障害も加わり,それらは特に“瘀血”と言ってよい。また,異常蛋白の蓄積は“痰飲”として理解されることがある。これらが基本病態となり相互的に加速させ,認知症が進行していく。これらは気の流れが堰き止められる“肝気鬱結”や,堰き止められたところから熱や風が発生する“肝風内動”,また,心の気血も虚することによる“心神不安”をもたらしやすい状態とも言えるだろう。

そして,基本病態,特に気血両虚が強まるとアパシーという形になって現れることも想定される。

関連書籍 ジェネラリストのための“メンタル漢方”入門【第2版】:宮内倫也著,A5判,320頁。抑うつ,不安,不眠,認知症BPSD,身体化障害に使える漢方処方を紹介。生薬の作用を知ることで,処方の意味や使い分けの根拠が理解できる。

(2) 認知症への漢方薬投与

(1)興奮/焦燥

BPSDの興奮/焦燥には抑肝散が判で押したように使用されるが,これは熄風作用を持つが清熱作用は強くなく,それほど効くものではない23。もう少し効かせたいときには,抑肝散に清熱作用を追加する目的で黄連解毒湯を付加するとよいだろう。筆者は興奮/焦燥に柴胡加竜骨牡蛎湯と人参養栄湯の併用を行っていたが,神田橋條治が茵蔯五苓散と人参養栄湯の併用を提唱してからは,それを中心にしている24。人参養栄湯で正気の虚を立て直しつつ,茵蔯五苓散で湿熱を払うことは合理的な方法と思われる。

(2)抑うつ

抑うつには,軽度の疏肝解鬱作用を持つ香蘇散と駆瘀血剤の芎帰調血飲の併用が温和な作用を示し,より抗うつ作用をもたらしたいのであれば柴胡を含む方剤,たとえば四逆散などを芎帰調血飲と併用する。抑うつは肝気鬱結により気の流れが堰き止められているのだが,神経変性という瘀血もあるため,駆瘀血剤(芎帰調血飲,桂枝茯苓丸,通導散など)を積極的に併用する。頭部CTで深部白質病変が認められるのであれば,釣藤散,そして,やはり駆瘀血剤が効果を示しやすいかもしれない。

(3)アパシー

アパシーには人参養栄湯が用いられ25,筆者は真武湯と人参湯の併用を行うこともある。アパシーは気を十分に補う必要があるのだが,賦活するために補陽薬の附子を用いる場合があり,真武湯がそれに当たる。抑うつが強く,倦怠感が前面に出て動けないような患者にも,この併用を使って良い場面が多い。

以上のように,筆者は“1人の患者に,正気の虚と病邪の実がある”という考えに基づき,日本漢方で言うところの虚証用の方剤と実証用の方剤を併用して治療にあたっている(14)。併用によって生薬が重なり,たとえば甘草の量が増えてしまうと偽性アルドステロン症のリスクにもなるなどの副作用には,注意が十分に必要である。

日常診療のリアルを架空の症例で解説

❼ 症例提示

最後に,架空の症例をいくつか提示し,その治療経過を追っていこう。

症例1

80歳代男性。
アルツハイマー病と診断され3年前より施設に入所し生活していた。最近入所してきたほかの男性が間違って様々な部屋に入っていってしまうことが続きそれ以来「盗まれた」や「ここにはスリがいるんだ」と言いはじめるようになった。
自分の荷物をベッド下に隠すようになりさらには施設スタッフに対して「お前らもスリか!」と大きな声を上げおむつの交換や入浴などのケアを拒否するようになったためスタッフに連れられ当院を受診した。

スタッフから聞くところによると,妄想やケアの拒否は1日を通じて変わらず,日中にぼんやりして反応が悪くなることを伴うという。スタッフに希望を聞くと「乱暴な感じはあんまりないんですけど,汚れてしまうのでせめてケアをさせてもらえたら」ということであった。本人は「スリに盗まれる。ここは何なんだ? 警察か?」と述べたため,筆者は「みんなの意見を聞いて,スリへの対策を考える本部です」と応じて相談に乗る構えを見せたところ,本人の警戒心はやや弱まったようだった。

▶薬剤選択

ここでどのような薬剤を選択するだろうか。症状に日内変動はなく,強い興奮/焦燥も今のところ認められない。妄想であるため,やはり抗精神病薬を少量から始めてみたくなる。使い慣れたものでよいが,患者に不眠やいくばくかの落ちつかなさなどがみられるのであれば,D2受容体と5-HT2A受容体を阻害するリスペリドンを少量から使用することを提案し,0.25mg/day分1就寝前もしくは夕食後から開始し,2週間後の再診とするのが妥当だろう。

▶評価・調整

その後は副作用に注意し,効果(今回は妄想によるケアへの抵抗の緩和)を聞くことになる。今回は,0.5mg/day就寝前への増量でケアへの抵抗がいくばくか緩和されたが,0.75mg/dayに増量したところ手指振戦が出現し朝の目覚めが遅くなってきたとのことだったため0.5mg/dayに戻し,リスペリドンと作用ポイントの被らないメマンチンを2.5mg/day就寝前に併用した。

最終的にはリスペリドン0.5mg/dayとメマンチン5mg/dayの併用によって,本人は「スリもいなくなった」と,スタッフも「ケアに協力してくれるようになりました」と,それぞれ述べるようになった。

抗精神病薬開始後のフォローアップと増減量の考え方
1週間では変化がやや見えにくく,外来では多くの場合2週間に1度の診察となるだろうか。症状が強い場合は1週間に1度として,副作用を確認しながら早めの薬剤増量を考慮する。

このあと…4つの症例が提示され,最後に「日常臨床は決して綺麗な経過をたどらず,薬剤を出したり引っ込めたりしているうちに潮目が変わってくることも,実に多い。治療者は投げださず,かといって1人で抱え込みすぎず,一生懸命に取り組みつつも冷静な視点を保ちながら診察の場に居続けることが肝要である」と締めくくります。

大事なことですね!

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