ペストは世界の広範な地域に常在する動物由来感染症である1)。病原体のペスト菌(Yersinia pestis)は,齧歯類(クマネズミ等)とノミの感染環によって自然界に維持されている。ケオプスネズミノミの刺咬が主要な感染経路であり,発熱と所属リンパ節腫大をきたす(腺ペスト)。菌血症をきたした場合には,ショックや電撃性紫斑病を伴い,致死率は高い(敗血症型ペスト)。また,ペスト菌を含んだエアロゾルを吸入しても感染し,肺炎を発症する(肺ペスト)。
19世紀末に香港を起点としたパンデミックが発生し,明治から大正期にかけて日本国内でも流行したが,1926年を最後に症例は報告されていない。1類感染症に指定されており,患者は特定または第一種感染症指定医療機関に移送され,治療を受けることとなっている。
▶診断のポイント
ペストの流行地(マダガスカル,コンゴ民主共和国等)に居住・滞在歴があり,高熱とリンパ節腫大(鼠径,腋窩等)を認める患者や肺炎・敗血症を呈している患者ではペストを疑う。病変リンパ節は強い疼痛を認めることが多い。海外旅行者のペスト罹患はきわめて稀だが,流行地を離れて1週間以内の発症,かつ病原体保有動物や患者との接触歴を認める場合には蓋然性が高いと考えるべきである。
ペストの臨床像は,他の病原体による化膿性リンパ節炎,敗血症,肺炎に類似するため,病原体診断が重要である。このため,血液,リンパ節吸引液,喀痰の細菌検査を行う。病原体の同定および血清診断は国立感染症研究所において実施されるため,最寄りの保健所に相談の上,適切な検体を提出する。
