透析治療を中止した末期腎不全患者について、中医協で緩和ケア病棟を診療報酬上の対象とする方針が示されました。これにより、2026年6月に予定される次期診療報酬改定において、緩和ケア病棟で腎不全終末期の患者の受け入れが認められる見通しです。
2025年9月に日本透析学会から『腎不全患者のための緩和ケアガイダンス』が発表され、国全体で腎不全終末期への対応が大きく変化しようとしています。
これらの変化は歓迎すべきものです。これまで一部の緩和ケア専門家が取り組んできたものの、制度的に狭間に置かれていた腎不全(さらに心不全や肝不全などの非がん疾患)に緩和ケアが届くことが期待されます。しかし、この変化がどれほどの速度で医療現場に浸透するかは、私たち医療者の覚悟が問われていると言えます。
そもそも、がん患者に対する緩和ケアの提供体制ですら十分とは言えません。担当医師・医療機関の考え方や地域の体制によって、患者が適切な時期に必要な緩和ケアを受けられるかどうかに大きな差があります。そのような状況では、腎不全患者に緩和ケア病棟の門戸を開くだけでは、実際の医療は大きく変わらない可能性があります。
緩和ケア病棟を利用できるのは、透析を行わない腎不全患者とされるようですが、その主治医を緩和ケア医とするのかは明確ではありません。がん終末期のみを担当してきた緩和ケア医が、非がん患者の終末期を適切に診療できるようになるには、時間と教育が必要です。また、透析を続けながら腎不全症状に苦しむ患者への対応はどうなるのでしょうか。緩和ケアを必要とする患者の多くは、がんと同じく緩和ケア病棟の外にこそ存在します。「早期からの緩和ケア」が、エビデンスがあるにもかかわらず普及していない日本で、腎不全の早期緩和ケアが進むかは疑問があります。
この機会に、緩和ケア専門家を含む医療者が「日本における緩和ケアのあり方」を改めて見直すべきだと思います。腎不全の緩和ケアについて言えば、慢性的に人員が不足している緩和ケア専門家だけに任せるのではなく、腎臓内科や泌尿器科など多職種の協力が不可欠です。そうでなければ、腎不全の緩和ケアは画餅に終わってしまいます。
2026年度に向けて、国全体で体制整備とモデルの発信を進め、日本の緩和ケアをさらに発展させていく必要があります。
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[腎不全患者のための緩和ケアガイダンス][緩和ケア]