RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)は乳幼児の重症下気道炎の主な原因で、2歳までにほぼ全員が一度は感染するとされています。特に生後6カ月未満で感染すると重症化しやすく、入院が必要となることも少なくありません。日本でも毎年多くの乳児がRSVで受診・入院しており、多くの親子にとって大きな負担となっています。生後まもない赤ちゃんの入院は、赤ちゃん自身がつらいだけでなく、心配する親の精神的負担に加え、付き添い入院や搾乳、母乳を届けるなど身体的な負担も計りしれません。
そのリスクを下げるための予防接種が、RSウイルスワクチン「アブリスボ」です。妊婦に接種することで母体にできた抗RSV抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに届き、生後すぐからRSVの重症化を防ぐ「母子免疫ワクチン」とされています。妊娠28〜36週の間に1回接種します。
国際的な大規模試験(MATISSE試験)では、生後90日以内の重症RS下気道疾患を約80%、180日以内でも約70%減らし、入院リスクも有意に減少するなど、高い予防効果が示されました。これにより、特に生後早期の赤ちゃんを守る有効な手段として世界的に注目されています。
2025年11月19日の厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会)で、2026年4月よりアブリスボが定期接種(公費接種)となることが決まりました。現状は任意接種であり、自費で3万円以上かかるため、費用が接種のハードルとなることもあります。定期接種化によって費用の心配なく接種できるようになり、より多くの親子とその家族が恩恵を受けられるようになります。これにより、乳児の重症RSV感染の減少、家庭の負担軽減、医療・社会コストの削減などが期待されます。
有効なワクチンの開発と、それを社会に届ける制度が着々に充実してきていることを実感するとともに、男子のHPVワクチン接種についても定期接種化に向けた議論が進むことを期待します。
稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[産婦人科][RSウイルス][定期接種]