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【識者の眼】「攻めの予防医療」安藤明美

登録日: 2025.12.09 最終更新日: 2025.12.12

安藤明美 (安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)

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高市内閣総理大臣は、第219回国会における所信表明演説で、「『攻めの予防医療』を徹底し、健康寿命の延伸を図り、皆が元気に活躍し、社会保障の担い手となっていただけるように取り組みます」と表明しました。

令和6年版 男女共同参画白書」によれば、健康上の問題で仕事、家事等に影響がある者の割合は、20〜29歳の男性12%、女性16%に対し、50〜59歳では男性36%、女性55%と、いずれも2倍以上に上ります。

性別にみた通院者数は、男女とも高血圧症が最多(人口千人当たり男性146.7人、女性135.7人)で、ついで糖尿病、脂質異常症、眼の病気、歯の病気が上位を占めています。このうち歯の病気以外は、職域の定期健診の法定項目で把握可能であり、異常を最初に指摘されるきっかけとなることも少なくありません。就業者の健康問題を早期に発見し、重症化を防ぐためには、健診の受診が重要です。

ところが、健診の受診率は就業形態によって大きく異なります。「令和6年版 男女共同参画白書」によれば、20〜69歳の健診・人間ドックの受診率は、正規雇用労働者では約9割ですが、非正規雇用労働者では、20〜39歳(男女ともに)で約6割、最も高い60〜69歳でも男性86.6%、女性80.3%と、正規雇用労働者に比べて低くなっています。

さらに、仕事をしていない者では、30〜39歳の男性が22.3%、最も高い60〜69歳の男性でも58.0%にとどまっています。女性も同様に、30〜39歳で32.0%、最も高い60〜69歳でも57.5%となっています。

すなわち、働いていないことで健診を受診する機会が少なくなり、前述のように血圧、血糖、血漿脂質などの異常を早期に発見できる機会が低くなります。その結果、病気がある程度進行し、症状が出て初めて医療機関につながるという状況が目立ちます。

同調査によると、男性は55歳を超えると正規雇用の人数が急激に減少し、女性は25〜29歳をピークに右肩下がりとなることも示されています。つまり、健康上の問題が増える50歳代以降では、就業形態の変化により健診の受診機会が減り、生活習慣病の早期発見や治療介入が遅れがちとなる実態がみえてきます。

私たちプライマリ・ケア医は、職域の定期健診だけでなく、フリーランスの健診も請け負うことがあります。こうした人々は、職域の定期健診の基準に照らせば就業制限の対象でも、発見や治療介入が遅れがちです。プライマリ・ケア医は、働く世代の健康問題にとって重要なゲートキーパーのひとつです。近畿大学法学部の三柴丈典教授も、地域・職域連携の必要性を説いています1)。「攻めの予防医療」を具現化するためにも、プライマリ・ケア医は、労働安全衛生法や労働安全衛生規則を意識した「働く世代の健康管理」を提供していく必要があります。

【文献】

1) 三柴丈典:産業医学ジャーナル. 2025;48(5):468–71.

安藤明美(安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)[攻めの予防医療][プライマリ・ケア重症化予防

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