分娩後異常出血は予測が困難であることが多く,急激な大量出血から播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)を引き起こし,多臓器不全や妊産婦死亡へ至ることがある。
▶診断のポイント
大量出血による稀釈性凝固障害だけでなく,早期よりDICとなる消費性凝固障害があることが特徴的である。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
分娩後異常出血を認めた際は,直ちに子宮収縮の程度を確認し,子宮収縮不良がある場合,弛緩出血を考える。腹部触診,双手診にて子宮底部が触れない場合は,子宮内反症を疑う。胎盤遺残の鑑別のために,娩出された胎盤に欠損がないかを確認する。また,触診で胎盤を把持した際に子宮壁が牽引されるときは,癒着胎盤の可能性を考える。子宮収縮が良好であるにもかかわらず,出血が持続する場合は,腟鏡診で腟壁・頸管などの軟産道裂傷の有無を確認する。外出血量とバイタルサインの変化に乖離がある場合には,後腹膜血腫,子宮峡部裂傷,子宮破裂なども考慮して診察を行う必要がある。これらの疾患では,経腹超音波検査による子宮の観察が有用である。
分娩後異常出血に対する治療の大原則は輸血療法,止血術であるが,血液凝固因子障害を伴う場合には,凝固因子を速やかに増加させることが可能なクリオプレシピテートやフィブリノゲン製剤が有効である。
【治療上の一般的注意&禁忌】
異常出血を認めた際に血液検査を実施するが,出血直後のヘモグロビン値や凝固系検査結果は,母体の重症度を反映しないため,ショックインデックスを含めたバイタルサインを重視する。原因検索と止血操作,輸血製剤選択が的確なタイミングで正確に行われることが,産科危機的出血の予後を左右する重要な要素である。
