肝吸虫,肝蛭はいずれも肝胆道系に感染する寄生虫である。
肝吸虫症は現在,国内での新規感染はほとんどみられないが,本虫の寿命が20年以上あるため感染に気づかず,胆管炎や胆管癌の原因となっていることがある。
▶診断のポイント
【肝吸虫症】
- 中間宿主となるコイ科淡水魚の非加熱あるいは加熱不十分での食事歴,流行地域(特に東アジア,東南アジア)への渡航歴や居住歴について詳細に聴取する。国内での感染を疑う場合は岡山県南部,琵琶湖沿岸,八郎潟,利根川および吉野川流域の居住歴を聴取する。
- 症状は,無症状から胆管炎や肝硬変まで,感染強度や期間によって幅が広い。胆管癌症例から本虫の感染が明らかとなる例もある。
- 肝胆道系のみに寄生することから,好酸球増多を伴わず特異抗体も陰性になりうる。
- 虫卵検査は,糞便や胆汁からホルマリン・酢酸エチル法などの集卵法で実施する。適切な方法で検査をしなければ偽陰性になりうるので注意が必要である。
【肝蛭症】
- セリやクレソンなど水辺の植物に付着したメタセルカリア(幼虫)を非加熱や加熱不十分で摂取することで感染するほか,稲藁などを取り扱う農作業を介した感染が疑われる事例もある。また,終宿主となるウシやシカが住環境近くにいるか聴取する必要がある。
- 感染から1~2カ月の初期は,腹壁や肝表面へ虫体が侵入することで発熱や多発性・移動性肝膿瘍,好酸球増多など比較的重篤な症状を呈する。この時期は虫卵も検出されないことから,画像所見と抗体検出(寄生虫抗体スクリーニングなど)で診断する。
- 感染から3カ月以降の後期には虫体が胆管や胆囊に移動し,胆管炎や胆囊炎を引き起こす。この頃には虫卵を産下するが,虫卵検査は糞便や胆汁からホルマリン・酢酸エチル法など適切な方法で実施しなければ偽陰性になりうる。なお,ヒト体内では肝蛭の成育が不良で虫卵が産下されないこともある。
