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心タンポナーデ[私の治療]

登録日: 2025.12.05 最終更新日: 2025.12.05

天野雅史 (国立循環器病研究センター心不全・移植部門心不全部)

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心タンポナーデとは,心膜液貯留により心室の拡張が障害され,静脈還流障害が生じ,心腔内容量が減少した結果,静脈のうっ滞と心拍出量の低下をきたす病態を指す。よって,心膜液貯留≠心タンポナーデであるため注意が必要である。心膜液貯留が血行動態に影響を及ぼすかどうかは,スペースが小さい心膜腔内における圧上昇の有無により決まり,心膜液の量と貯留速度がその規定因子となる。心膜液が徐々に貯留する場合は,心膜液が大量になるまで心タンポナーデの血行動態にはなりにくいが,大動脈解離や心筋梗塞後の心破裂などでは心膜液の量がごくわずかでも急速に貯留するため,急性心タンポナーデを起こしうる。

▶診断のポイント

【症状・身体所見】

通常,心膜液貯留のみでは症状をきたさないことが多いが,呼吸困難・胸部圧迫感・起坐呼吸などの症状が出現すると,心タンポナーデの血行動態に移行しつつある状態と判断できる。最終的に心タンポナーデとなり心拍出量が重度に低下すると,血圧低下・頻脈を呈し,ショック状態となる。心タンポナーデの血行動態を判断するための必要条件として,血圧低下と頻脈は非常に重要な所見である。一方,大量出血など他の原因でもショック状態は起こりうるため注意が必要である。補足所見としてBeckの三徴(低血圧・心音減弱・頸静脈怒張)は重要な所見であるものの,必ずしもすべてそろうとは限らないため,ベッドサイド心エコー図検査を追加し所見を確認する必要がある。

【検査所見】

〈心エコー図検査〉

心タンポナーデでは,拡張早期における右室・右房壁の心腔内への虚脱を認める。これは,心膜内圧が心腔内圧を一時的に凌駕するため生じるが,拡張早期の右室壁の虚脱はより特異度の高い所見である。心膜液の量は心タンポナーデとは必ずしも関連せず,多量の心膜液貯留だけでも特に右房壁の虚脱は生じうるので注意が必要である。下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失も必ず確認する必要がある。

〈右心カテーテル検査・動脈圧波形〉

心タンポナーデでは,収縮性心膜炎とは異なり拡張初期から拡張障害が起こり,心膜自体は肥厚心膜よりやわらかいため,収縮性心膜炎と比較すると圧上昇の緩和がみられる。よって,圧波形では心室拡張期圧全体の上昇・心房圧上昇は認めるが,収縮性心膜炎のようにdip and plateauや等圧化はみられない。また,動脈圧波形では呼吸変動による奇脈がよく知られている(呼気と比較して吸気に10mmHg以上収縮期圧が低下する現象)。

通常は呼吸により両心室内圧は同時に上下するが,吸気時に胸腔内圧が低下し右心系への血流が増加すると,拡大した右室により左室の拡張は妨げられる。さらに肺静脈より左心系に流れる血流の駆動圧が低下するため,肺静脈ならびに僧帽弁流入血流は減少し,結果的に左室圧は低下する。心タンポナーデを疑う際,右心カテーテル検査を施行する時間的な余裕はないことが多く,動脈圧と呼吸性変動で判断する場合がほとんどであるため,奇脈は心タンポナーデ診断において重要な所見である。


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