整形外科医にとって「感染創のある状態で手術をしてはいけない」というのは、疑う余地のない常識でした。大学病院勤務時代のカンファレンスでは必ず感染創の有無を確認し、少しでも感染源(虫歯ですら)があれば延期する。それほどまでに、手術における感染は避けるべきものとされていました。
そんな常識に直面させられたのは、私がまだ足の医療の経験を積みはじめた頃、前任の病院に勤務していたときのことです。39歳男性、Charcot-Marie-Tooth病による感覚障害と足変形拘縮を背景に、長年治らない深い足底潰瘍を抱えていました。歩くたびに潰瘍は悪化し、生活に困窮し、行く先々の病院で切断を勧められてきた患者でした。当時の創傷ケアセンター長から「変形を矯正すれば潰瘍は治るかもしれない」と相談を受け、私は大いに悩みました。明らかに感染を伴う創を抱えた足にメスを入れることは、当時の自分には“禁忌”であり、常識外のことだったからです。