Google Researchが開発した医療用AI(articulate medical intelligence explorer:AMIE)を用いた研究が、Nature誌に2本続けて掲載されました1)2)。これは従来の「医学知識を検索して答えるAI」とは一線を画し、患者との「問診(対話)」を通じて診断を導き出すことに特化した大規模言語モデルです。
論文の内容は衝撃的で、high impact journalであるNatureが掲載を決めたのも納得できるものでした。 研究では、患者役の俳優(模擬患者)に対し、実際の総合診療医とAMIEがそれぞれテキストチャットで問診を行いました。その結果、問診の質、診断の正確性、さらには患者への共感性を含む32の評価項目のうち、実に28項目でAMIEが医師を上回る成績を示したのです。
まず、我々医師がプロフェッショナルとして最も重視し、自負してきた「診断能力」において、AIが人間を凌駕していた点は大きな驚きでした。AMIEは、トップ3鑑別診断の正答率において専門医よりも高いスコアを記録しました。実際、みなさんも近年のChatGPTやOpenEvidenceなどのAIを使い、その判断の正確さに驚いた経験があるのではないでしょうか? AMIEはこれらと同等の推論能力に加え、膨大な医学知識を背景に、抜け漏れの少ない問診を展開します。さらに驚くべきことに、AMIEのほうが、共感力や丁寧さといった指標でも、患者から有意に高い評価を受けていました。診断を急ぐあまり患者の話を遮ることもなく、常に丁寧で共感的な態度を崩さない点が高く評価されたのです。
これらの結果は非常に衝撃的であり、我々の役割は今後どうなるのかと不安になるほどです。しかし、これからの医師に求められることは、自身の記憶と経験だけに頼って診断を下すことではありません。むしろ、AIという強力なパートナーが提示する高精度な鑑別診断を最大限活用し、目の前の患者の身体所見、複雑な社会的背景、そして個人の価値観など、チャット上のテキストには収まりきらない情報を統合して、最終的な「決断」を下す司令塔としての役割を担うことです。
聴診器や心エコーの登場が診療を大きく進化させたように、AIもまた、現代医療において不可欠なモダリティのひとつになるでしょう。診断精度や効率を飛躍的に高めるツールが存在する以上、患者の利益を最優先に考えれば、それを「使わない」という選択肢は今後ありえません。AMIEが示したのは、人間とAIの対立構造ではなく、AIを使いこなすことで初めて到達できる医療の新たな地平なのです。
【文献】
1) Tu T, et al:Nature. 2025;642(8067):442-50.
2) McDuff D, et al:Nature. 2025;642(8067):451-7.
鍵山暢之(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学教室准教授)[AMIE][診断精度][AIとの協働]