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【識者の眼】「母子免疫:母から子への贈り物─妊婦へのRSウイルスワクチン」岡部信彦

登録日: 2025.12.04 最終更新日: 2025.12.04

岡部信彦 (川崎市立多摩病院小児科)

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新生児・乳児は免疫的に未熟で、感染すると重症化しやすい。そのため、できるだけ清潔に保ち、病原体への暴露を避ける配慮が必要である。新米の母親が自然と丁寧に赤ちゃんを扱うのもそのためだ。一方で、新生児・早期乳児は意外と感染しにくいこともある。妊娠中の母親が自らのIgG抗体を、胎盤を通して胎児に渡し、出生後の子どもを守っているからである。父親にはできない、まさに“母から子への贈り物”である。しかしこの贈り物は、生後6カ月〜1歳頃までに減少し、児自信がつくるIgGに置き換わっていく。

麻疹多発国では、母親からの移行抗体により新生児・早期乳児が守られているが、移行抗体が減り始める生後6カ月〜1歳の間に麻疹ワクチンの接種を行う。移行抗体が残っていると生ワクチンが中和されることがあるため、1歳以降に全児へ再接種して予防を確実にしている。

多くの途上国で問題となった新生児破傷風は、新生児へのワクチン接種では防ぐことはできない。そのため妊婦に破傷風トキソイド(不活化ワクチン)を接種し、移行抗体で新生児を守る方法が確立された。

2009年のインフルエンザパンデミックでは、妊婦の重症化が問題となり、妊婦へのインフルエンザワクチンが推奨され、わが国でも希望者への接種が始まった。それまで妊婦へのワクチン接種は一般にも、医療者にも受け入れられにくかったが、これを機に理解が進んだ。

RSウイルスは、高齢者でも重症化が課題となっているが、新生児・乳幼児では重症下気道炎の主因であり、小児科医はその脅威を十分に経験している。COVID-19パンデミック時に、RSウイルス感染が増えた際も、小児科医はCOVID-19感染症以上に警戒した。

新生児期からのRSウイルス予防は長年の課題で、これまで心疾患・呼吸疾患などのハイリスク児にパリビズマブ(シナジス®)が投与されてきた。また、新たに妊婦へのRSワクチン投与で新生児・早期乳児の重症化を防ぐ効果と安全性が確認され、2024年1月に国内承認されたことで、一部で任意接種として使用されてきた。その後のデータと公衆衛生上の重要性をふまえ、厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会)は、2026年4月から妊娠28〜36週の妊婦に定期接種としてRSウイルス母子免疫ワクチンを実施する方針を承認した。

RSウイルス感染予防としては、従来のパリビズバムに加え、新たに承認されたニルセビマブ(ベイフォータス®)の使用や小児へのワクチン接種も次の手段として期待されている。まずは“母から子への贈り物”としてのRSウイルス母子免疫ワクチンの本格導入を歓迎し、広く理解を得たいところである。

岡部信彦(川崎市立多摩病院小児科)[母子免疫][ワクチン

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