近年、子どもの化粧品使用開始年齢の低下が指摘されている。全国の小学校1年生〜中学2年生女子を対象とした調査では、スキンケア製品の使用率は学年が上がるにつれて増加し、中学生では約8割に達している。メイク用品も小学校低学年で約2割、中学1年生では約5割に増えており、思春期前後に美容への関心が急速に高まることがうかがえる。
家庭環境の影響も大きく、母親の自己客体化傾向(他者からどうみられるかへの意識)が高いほど、またブランド志向が強いほど、子ども自身の外見への関心も高まるとの報告がある。このように、子どものメイク行動は流行だけでなく、家庭の価値観や日常的な刺激の影響を受けて形成されると考えられる。
心理面については、成人では化粧が自己評価を高めるという知見があるものの、子どもで同等の効果を示した研究は存在しない。思春期はアイデンティティ形成が進み、外見への関心が自然に高まる時期ではあるが、美容行動が心理的脆弱性と結びつく可能性も指摘される。
中高生387名を対象とした研究では、外見に関する過剰な美容行動(不安を軽減するために何度も鏡で見た目を確認したり、隠す目的で化粧をしたりする行動)が、不安障害や摂食障害、身体醜形症と関連していたと報告されている1)。ただし、この関連に因果関係があるのかどうかはわからない。過剰な美容行動が不安を強めた可能性もあれば、不安が強いことで美容行動が誘発された可能性もある。個人的には、子どものメイクの心理的影響については、過度に楽観視も悲観視もしすぎる必要はないと考えている。
一方、皮膚への影響はより具体的なリスクがある。化粧品には多様な化学物質が含まれ、そのうち約88種類が皮膚炎やアレルギー反応と関連する可能性が指摘されている。また、SNSで人気のスキンケア製品には刺激性成分が多く含まれ、接触性皮膚炎や光線過敏症のリスクが懸念されている。
さらに、子ども向け製品のうち「ナチュラル」「エコロジカル」といった表示のある製品の約4割に食物由来成分が含まれていたとの報告もあり、経皮感作を通じた食物アレルギー発症の可能性は無視できない。過去には小麦由来成分を含む石鹸により大規模な小麦アレルギーが発症した事例もあり、同様の機序が子どもにも生じうる。
なお、18歳未満を対象とした報告では、化粧品による副作用の最多は接触性皮膚炎であり、香料や防腐剤が主な原因とされている。
メイク開始年齢に関する正式なガイドラインは存在しないため、明確に「何歳から」と推奨することはできないが、皮膚への負担を考えると、小学生での使用は避け、中学生になってから家庭内で相談・検討するのがよいのではないかと考えている。
また、「学校では使わない」や「中学校卒業まではしない」といった家庭内でのルールづくりも有効だろう。思春期の子どもは外見への関心が高まりやすいが、外見を気にする子どもにはその気持ちに耳を傾けた上で、自信を持てるような言葉をかけることも、家族が担う大切な役割だと考えている。
【文献】
1) Bilsky SA, et al:J Adolesc. 2022;94(7):939-54.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[小児科][子どものメイク]