腰痛や背部痛はありふれた主訴である。多くは20~40歳の間で初発症状を経験するが,大部分は非特異的で明確な原因を指摘できない。プライマリ・ケアで緊急性のある疾患に遭遇する確率は1%にも満たないが,腰痛を主訴に救急外来を受診する患者の2.5~5.1%程度に,緊急で治療を要する疾患が存在している。このためred flagとなる病歴を見逃さないことが肝要である。
▶病歴聴取のポイント
腰背部痛の原因は,①脊椎・脊髄病変,その他骨病変,筋痛をはじめとした整形外科疾患,②それ以外の内臓疾患にわけて考える。
①の大部分は非特異的な筋痛症状(過度の使用や疲労など)で,対症療法以上の治療を要さない。しかし,一部の症例で脊椎・脊髄病変によるemergencyも存在する。脊髄や神経根,馬尾神経の障害を示唆する重要なred flagとして,運動感覚障害,排便排尿障害,肛門括約筋の弛緩,陰部周囲の感覚喪失などを見逃さないように聴取する。また,脊椎や骨盤の骨折を鑑別するために,外傷の有無に関する聴取も必要である。高所からの墜落,自動車事故,骨粗鬆症が想定される患者での転倒や重いものを持つ作業は,重要な受傷機転である。ほかには,悪性腫瘍骨転移の病歴,細菌感染症またはそのリスクの存在といった背景疾患がある場合は,化膿性椎体炎や病的骨折も鑑別疾患とする。
②では大動脈解離,大動脈瘤破裂,急性膵炎,急性胆囊炎,消化管穿孔,後腹膜出血など重症度や緊急度の高い病態も鑑別疾患に挙げる必要がある。突然発症(sudden onset)の病歴,冷汗,胸痛を伴うか,などが聴取のポイントとなる。
