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【識者の眼】「緊急避妊薬のOTC化がついに決定!」稲葉可奈子

登録日: 2025.10.14 最終更新日: 2025.10.20

稲葉可奈子 (産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)

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長年議論されてきた、そして本稿でも何度か取り上げてきた緊急避妊薬(アフターピル)のOTC化が、2025年8月29日、ついに厚生労働省の専門家会議で了承されました。今後、パブリックコメントを経て正式に承認される予定で、医師の処方箋なしに薬局で購入することができる道が開かれそうです。主な条件は、「店舗での対面販売」「研修を受けた薬剤師による説明」「薬剤師の面前での服用」「年齢制限なし」「未成年者も保護者の同伴不要」になります。特に、年齢制限の撤廃と保護者の同伴不要は、大きな前進と言えるでしょう。

一方で、「面前服用」については、「プライバシーの侵害や心理的負担につながる」との批判もあります。しかし、もともとプライバシーが確保できる薬局でなければ緊急避妊薬を販売することはできません。また、緊急避妊薬は早く服用するほど効果が高いため、その場での内服は医学的にも妥当であり、女性にとって有益なことなのです。臨床現場においても、説明後すぐの服用が推奨されており、決して女性を信用していないわけではなく、人権を侵害するものでもありません。

OTC化の議論は2016年に始まりました。当時のパブリックコメントでは9割以上が賛成でしたが、自己判断の難しさや性教育の不足、薬局の体制や悪用への懸念が指摘され、最終的に見送られました。その後、2020年の第5次男女共同参画基本計画に「処方箋なしで適切に利用できるよう検討」と盛り込まれました。社会的関心の高まりもあり、2022年12月〜2023年1月に実施された2回目のパブリックコメントでは約4万6000件もの意見が寄せられ、そのうち大多数が賛成でした。2023年からは薬局での試験販売も始まりましたが、未成年者は保護者の同伴が必要であったことや、販売薬局数が限られていたことなど、利用には制約がありました。

今回了承された方針では、試験販売時の「年齢制限」や「保護者の同伴」が撤廃された点が重要です。性教育の普及によって、そもそも緊急避妊薬が必要となる場面を減らすことが望ましいですが、避妊の失敗や性被害のケースもあります。そうした場面で、アクセスを妨げる条件がなくなったことは、大きな進展です。面前服用については、「義務」ではなく「推奨」とする柔軟な運用も考えられますが、少なくともこれは人権を侵害するような条件ではないということを、ご理解頂きたいと思います。そうでなければ、かえって面前で服用する女性たちに対して、間違ったスティグマを抱かせてしまうことになりかねません。

年に及ぶ議論を経て実現に近づいた緊急避妊薬のOTC化は、女性の性と生殖に関する健康と権利(SRHR)、すなわち「からだの自己決定権」を守る上で、大きな一歩と言えるでしょう。

稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[産婦人科緊急避妊薬OTC

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