自己免疫介在性脳炎・脳症(autoimmune encephalitis:AE)(広義)は,自己免疫機序を介した脳炎・脳症の総称であり,これまでに多くの自己抗体(神経抗体)が発見されている。AEのうち,併発症に腫瘍がある場合,傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome:PNS)(広義)と呼ぶ1)。
神経抗体は,①神経系細胞内抗原を認識するgroup Ⅰ抗体〔代表的抗体:Hu(ANNA1)抗体,Yo(PCA1)抗体〕,②神経系細胞表面抗原を認識するgroup Ⅱ抗体〔代表的抗体:N-methyl-D-aspartate receptor(NMDAR)抗体,leucine-rich glioma inactivated 1(LGI-1)抗体〕に分類される。一般に,group Ⅰ抗体を持つ脳炎・脳症は免疫治療への反応が不良であり,group Ⅱ抗体を持つ脳炎・脳症は免疫治療への反応が良好である1)。
group Ⅰ抗体を持つ脳炎・脳症は,human leukocyte antigen(HLA)class Ⅰ拘束性CD8陽性細胞傷害性T細胞を介した神経系細胞障害を引き起こす。group Ⅱ抗体を持つ脳炎・脳症は,神経系細胞(神経細胞およびグリア細胞)表面の神経伝達物質受容体やシナプス伝達などに関連する分子を標的とする自己抗体を介した神経系細胞障害を引き起こす1)。group Ⅰ抗体を持つ脳炎・脳症をPNS(狭義),group Ⅱ抗体を持つ脳炎・脳症をAE(狭義)と呼ぶ場合もある1)。
AEを疑う場合,①解剖学的分類,②血清学的分類,③病因学的分類にわけ,疾患を理解する2)。①の解剖学的分類〔1.辺縁系脳炎,2.皮質・皮質下脳炎,3.線条体脳炎,4.間脳炎,5.脳幹脳炎,6.小脳炎,7.脳脊髄炎,8.髄膜脳炎,9.複合した領域の脳炎〕から病変を理解する。②の血清学的分類〔1. group Ⅰ抗体(神経系細胞内抗原を認識する),2. group Ⅱ抗体(神経系細胞表面抗原を認識する),3.神経抗体陰性など〕から臨床表現型や腫瘍合併頻度を推測する1)。③の病因学的分類〔1.特発性,2.傍腫瘍性,3.傍感染性,4.医原性(免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象など)〕から病態を類推し,今後の治療法を検討する。
これまでの疾患概念形成の経緯から,現時点では多発性硬化症,視神経脊髄炎スペクトラム障害,急性散在性脳脊髄炎,CNS(central nervous system)ループス,神経ベーチェット病は,AEに含まれない1)。
▶診断のポイント
- Grausらによる診断アルゴリズムに従い,次の項目を満たした場合,AEを疑う(possible AE)1)。
①知能異常,記憶障害(作業),精神症候が急性から亜急性に発症し,急速(3カ月以内)に進行する。
②症候・検査異常4項目(1.新規の中枢神経症候,2.新規の痙攣発作,3.脳脊髄液細胞数増多,4.脳炎を示唆するMRI所見)のうち,少なくとも1項目を満たす。
③次に示す疾患を除外できる。中枢神経系感染症,敗血症性脳症,代謝性脳症,薬剤性脳症,脳血管疾患,悪性新生物,クロイツフェルト・ヤコブ病,リウマチ疾患,てんかん,クライネ・レヴィン症候群,ライ症候群,ミトコンドリア病,先天代謝異常症など。 - AE疑診(possible AE)と考えられた場合,神経抗体検査を行った上で,臨床病型を診断する。除外診断を十分に行う。
- 神経抗体により,症状,症候,合併腫瘍,治療反応が異なる1)2)。
- 最も症例が多いNMDAR抗体脳炎ではGrausらによる診断アルゴリズムに従い,次の項目を満たした場合,NMDAR抗体脳炎と診断する1)。
①急速に進展する臨床症候6項目(1.行動異常もしくは認知機能障害,2.言語障害,3.痙攣,4.不随意運動,5.意識障害,6.自律神経障害もしくは中枢性低換気)を認める。
②検査異常2項目(1.異常脳波,2.脳脊髄液細胞増多もしくはオリゴクローナルバンド陽性)を認める。
③脳脊髄液においてNMDA受容体IgG抗体(GluN1サブユニット)を認める。血清検体の場合,cell-based assayのほかに,live neuronやtissueを用いた抗体測定系で確認する。
④全身における奇形腫の併発を認める。
⑤他の疾患が除外できる。
準確診群(probable NMDAR抗体脳炎):①6項目中4項目以上,②2項目中1項目以上,⑤を満たす。もしくは①6項目中3項目以上,④を満たす。
確定診断群(definite NMDAR抗体脳炎):①6項目中1項目以上,③を満たす。 - AEには腫瘍を併発することがある。PNSの診断基準3)を参考に診断プロセスを進める。
