生成AIの進歩は目覚ましく、医療現場でも多くの関係者が日常的に活用するようになってきた。処方内容の確認、文献検索、医療文書の作成補助など、その用途は多岐にわたる。
そうした中、病理診断に関して実用的な生成AIも登場している。たとえば、Perplexityだ。このツールの特筆すべきことは、情報ソースを学術論文に限定して検索・回答させることができる点にある。医学的な問いを投げかければ、論文を引用しつつ根拠のある回答を提示してくれる。
さらに、病理組織像の解読補助も可能だ。試みとして、『組織病理アトラス』に掲載の画像を解析させたところ、正確な鑑別診断を導き出した。「1人病理医」として日々奮闘する者にとって、頼れるアシスタント、いや、パートナーを得た感覚に近い。
しかし、ここで立ち止まらなければならない問題がある。患者情報を含みうる病理画像を、外部AIに読み込ませることの是非だ。
病理画像には、氏名やIDが写り込んでいなくても、施設情報や症例の稀少性などから患者を特定しうる情報が含まれる場合がある。外部サービスへのアップロードは、個人情報保護法第27条(第三者提供の制限)に抵触する可能性があるのみならず、厚生労働省が策定した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」にも反する恐れがある。
現行の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第6.0版)では、クラウドサービスを含む外部サービスに医療情報を提供する際、適切な契約締結と安全管理措置の実施が求められている。一般向け生成AIサービスの多くは、こうした要件を満たしていない。
では、どうすればよいのか。
現実的な対応策として、次のような方向性が考えられる。
─匿名化・脱識別化の徹底:患者氏名、ID、採取日などの情報を除去した上で利用する
─院内完結型AIの活用:外部送信を伴わないローカル環境や、医療機関向けに契約されたエンタープライズ型サービスを利用する
─施設内規定の確認:各医療機関の情報管理規定や倫理委員会の方針を事前に確認する
技術の進歩は、時に法整備や院内ルールを追い越していく。生成AIの可能性に胸を躍らせることは自然なことだが、熱狂の中にあるときこそ、冷静な判断が求められる。
生成AIは道具にすぎない。その道具を正しく使いこなすのは、あくまで人間─すなわち、私たち医師自身だ。法令とガイドラインを遵守しながら、生成AIの恩恵を最大限に引き出す方法を模索していく。それが、AI時代を生きる医師の姿勢ではないだろうか。一喜一憂せず、着実に、誠実に。
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[生成AI][倫理的課題]