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心房細動における経カテーテル的左心耳閉鎖術[学術論文]

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  • 3. 経カテーテル的左心耳閉鎖術

    1 抗凝固療法(ワルファリン)との比較

    WATCHMANTMの安全性,有効性に関する最初の多施設前向きランダム化比較試験がPROTECT AF試験である1)2)。本試験では,CHADS2スコア1点以上のNVAF患者707人を,WATCHMANTMで左心耳を閉鎖後にワルファリンを中止する経カテーテル的左心耳閉鎖術群463人と,ワルファリンによる抗凝固療法を行う抗凝固薬群244人に無作為に割り振り,左心耳閉鎖デバイスWATCHMANTMの有効性と安全性の検討を行っている。有効性の一次エンドポイントは脳卒中,心血管死・原因不明の死亡,全身性塞栓症の複合で,安全性の一次エンドポイントは大出血と手技に伴う合併症の複合である。

    左心耳閉鎖術群では,WATCHMANTM留置後45日間ワルファリンとアスピリンを投与し,経食道心エコーで左心耳の閉鎖(完全閉鎖あるいはエコーで幅5mm未満の残存血流)が確認されればワルファリンは中止し,クロピドグレルとアスピリンの内服に変更し,6カ月後以降はアスピリンのみとしている。

    平均観察期間3.8年での解析2)の結果,有効性一次エンドポイント発生は左心耳閉鎖術群で463人中39事象,2.3/100患者・年,抗凝固薬群で244人中34事象,3.8/100患者・年となり,左心耳閉鎖術群において,非劣性だけでなく優越性も示された。また,左心耳閉鎖術群では抗凝固薬群に比し,心臓血管死および全死亡が少ないことも示された。

    2 抗凝固療法(DOAC)との比較

    PROTECT AF試験およびそれに続くPREVAIL試験は,ワルファリンと比較した経カテーテル的左心耳閉鎖術の有効性と安全性を示した多施設前向きランダム化試験であるが,現在の抗凝固薬の主流はワルファリンではなくDOACであるため,2020年に報告されたPRAGUE-17試験3)では,経カテーテル的左心耳閉鎖術とDOACを比較する前向きランダム化試験が行われた。同研究での一次エンドポイントは脳卒中,全身塞栓症,心血管死亡,出血,合併症の複合で(追跡期間中央値19.9カ月),DOACに対する左心耳閉鎖術の非劣性が示された。

    一方で,手技成功率が201人中181人(90.0%),デバイスと手技が関連した主要合併症が9人(4.5%)に認められ,安全性に関する懸念,注意勧告もされている。

    2022年にはPRAGUE-17試験の長期報告4)(追跡期間中央値3.5年)で,一次エンドポイントに関してやはりDOACに対する左心耳閉鎖術の非劣性が示された(図2)4)


    そして手技に伴わない出血事象が左心耳閉鎖術群で少ないことも示された。両群間における出血事象頻度の差は徐々に拡大する傾向を認め,DOACと比較した左心耳閉鎖術の利点は,経時的に明瞭化することを示唆している。

    残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響で術後の十分な経食道心エコーの評価が行えず,デバイスへの血栓付着(device-related thrombosis:DRT)に関する評価は不十分である。

    3 メタ解析による抗凝固療法(ワルファリン/DOAC)との比較

    2020年に報告されたPROTECT AF試験,PREVAIL試験,PRAGUE-17試験によるメタ解析5)では,経カテーテル的左心耳閉鎖術は,経口抗凝固薬(ワルファリンあるいはDOAC)と比べて脳卒中の発症頻度は同程度であるが,出血性脳卒中と心血管死亡,そして全死亡の発生頻度が少ないことが示されている(図3)5)。死亡率の低下は出血性脳卒中そして手技に伴わない出血事象が左心耳閉鎖術群で少ないことに起因すると思われるが,主にワルファリンとの比較研究の結果が影響している可能性も考えられる。今後さらなるDOACとの前向きランダム化比較試験による検証が必要であろう。

    4 左心耳閉鎖デバイス留置後に発生するDRTの問題

    左心耳閉鎖デバイス留置後の重要な問題点のひとつが,先述したDRTである。PRO- TECT AF試験ではDRTを5.7%で認めたと報告している6)。4つの大規模臨床試験(PROTECT AF,PREVAIL,CAP,CAP2)をまとめた2018年の解析7)では,1739人中65人(3.74%)でDRTが認められた。DRTを認めた患者では,脳卒中と全身塞栓症の発生率が高いことが示された。DRT発生因子は一過性脳虚血発作/脳卒中既往,永続性心房細動,血管疾患,左心耳径,左室駆出率であった。

    一方,2021年に報告された37施設からの国際研究8)では,DRTを認めた237人と認めなかった474人で検討したところ,凝固能が亢進する疾患,医原性心囊水,腎機能低下,深いデバイス留置部位(肺静脈近位端から10mmを超えた部位への留置),そして非発作性心房細動がDRT発生の独立した危険因子で,これらを2つ以上有する場合は,有しない場合に比べて2.1倍のDRT発生リスクを認めた。うっ血性心不全,CHA2DS2-VAScスコア,脳卒中既往,デバイス端のリーク,退院時抗血栓薬の種類は独立した因子ではなかった。そしてDRTと複合一次エンドポイント(死亡,虚血性脳卒中,全身性塞栓症)発生との関連性が示された。

    5 DRT再発と脳卒中

    2019年にはDRT再発に関する研究9)が報告された。欧州とカナダの8施設で2014~2018年の間に経カテーテル的左心耳閉鎖術を行った連続1344人において解析を行ったところ,留置後1年以内に経食道心エコーあるいはCTを行った1197人中40人(3.3%)でDRTを認めた。抗凝固薬などで治療を行い,再検査を行えた35人中28人(80.0%)においてDRT消失が確認された9)

    このDRT消失が確認し得た28人中の23人においてDRT再発有無を再検査すると,8人(34.8%)でDRT再発を認めた。DRTの再発が34.8%と比較的高値であることは,経カテーテル的左心耳閉鎖術を行う際に留意すべき重要な点である。また,DRT再発を認めない残り15人中2人(13.3%)に脳卒中を認めたとしている。一般的に左心耳閉鎖後のDRT評価は継続的には行われず,これまでの研究でもその頻度が過小評価されている可能性があり,注意が必要である。

    DRTの危険因子に対する介入は多くが困難であるが,デバイス留置位置に関しては介入可能であるため,慎重に決定すべきであろう。また,デバイス自体のさらなる改良も期待される。

    6 日本で使用できる左心耳閉鎖デバイス

    現在,わが国で使用可能な左心耳閉鎖デバイスはWATCHMAN FLXTMのみである(図4・5)10)。2021年に報告されたPINNACLE FLX試験11)では,400人中395人(98.8%)でWATCHMAN FLXTMの留置手技が成功し,安全性一次エンドポイント(留置7日以内あるいは退院までの死亡,虚血性脳卒中,全身塞栓症,外科的治療が必要なデバイスや手技に関連した合併症)発症は2人(共に虚血性脳卒中)のみであった。


    また12カ月後の経食道心エコーでは,全例デバイス辺縁部のリークは5mm以下で良好な閉鎖が得られていた。WATCHMAN FLXTMは先代と比べて血栓が付着しやすいスクリュー部の金属露出が77%減少しており,DRT発生頻度の減少も期待されている。本研究では7人(1.8%)でDRTを認める結果となった。欧米では多くの様々なデバイスが臨床使用されており,デバイス自体の改良によって安全性・有効性がさらに改善することも期待される。

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