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ABPM・家庭血圧測定における血圧変動の評価

No.4737 (2015年02月07日発行) P.54

苅尾七臣 (自治医科大学循環器内科主任教授)

登録日: 2015-02-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)や家庭血圧を用いた血圧評価で,24時間平均血圧,昼間・夜間血圧のほかに,モーニングサージ,血圧日内変動,血圧変動性,日間変動などが,心血管疾患リスクとなると報告されています。
高血圧診療において,これらの因子をどのように評価して治療に反映すべきでしょうか。たとえば,24時間平均血圧値は目標血圧に到達していても,モーニングサージがあったり,家庭血圧での日間変動が大きい場合には,治療を変更したり,追加する必要があるのでしょうか。また,それぞれの基準値について,具体的な治療法を含めて,自治医科大学・苅尾七臣先生のご回答をお願いします。
【質問者】
岩嶋義雄:国立循環器病研究センター病院 高血圧・腎臓科医長

【A】

臨床的にも,学術的にも今後の方向性を示すきわめて重要なご質問です。2014年4月に日本高血圧学会が「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014)を発表しましたが,治療に関する十分なエビデンスがなく,具体的記載を見送りました。つまり,血圧変動をどのように日常高血圧診療に取り入れるかが,次回のガイドライン改訂の焦点となります。
JSH2014で最も強調された項目が家庭血圧です。家庭血圧による高血圧の診断閾値は135/85mmHgで,この値を目標に降圧療法を行うことがガイドラインにおける標準的診療です。現時点では,この家庭血圧をいかに高血圧の実地診療に取り入れるかが最も重要です。
この高血圧は血圧の平均値を算出して診断しますが,血圧は一刻一刻変動しています。ご質問にあるようなモーニングサージやnon-dipper/dipper型日内変動,日間変動,季節変動,起立性高血圧および低血圧など,様々な血圧変動性がみられます。
現在のエビデンスでは,これらの血圧変動性の増大は,平均血圧とは独立して,無症候性脳血管障害,心肥大,アルブミン尿などの臓器障害の進展や,将来の心血管イベントの発生リスクの増加と有意に関連していることが示されています。私たちは,これら血圧・血流の拍動性ストレスの増大が大小血管障害や臓器障害と相乗的に悪循環を形成して増悪する病態を全身血行動態アテローム血栓症候群(systemic hemodynamic atherothrombotic syndrome:SHATS)と名づけています(文献1)。
しかし,残念ながら,血圧変動性の正常化により,心血管イベントの発生リスクが改善することを明確に示した報告はありません。つまり,non-dipper/riserを正常dipperに変更させたり,過度のモーニングサージをターゲットにして降圧療法を行うことにより,明確にイベントが抑制されたという報告は,一部の例外を除き,まだないのです。
臓器障害への影響では,我々はアンジオテンシン受容体拮抗薬の朝投与と夜間就寝前投与による微量アルブミン尿の低下を比較したJ-TOP研究を行いました。本研究では,夜間・早朝血圧の低下は同程度でしたが,就寝前投与のほうが,朝投与よりも微量アルブミン尿がより大きく低下しました(文献2)。特に,朝の家庭血圧が就寝時家庭血圧よりも15mmHg以上高い「早朝高血圧」患者では,就寝前投与の効果がより大きいことが明らかとなりました。したがって,早朝高血圧では早朝血圧を治療ターゲットにして降圧薬の投与タイミングを変えることにより,臓器障害と心血管リスクを減少させることが期待できます。この成績が心血管イベント抑制につながるかどうか,今後のエビデンスが待たれます。
家庭日間変動や診察室血圧は,血圧測定期間中の最大値や標準偏差(standard deviation:SD)で評価されますが,振り返って算出するので,一時的な血圧を治療ターゲットとして,どのような治療を行えばよいのか明確ではありません。現時点では最大値をより減少させ,最小値の低下効果は少ない特性を有するカルシウム拮抗薬が血圧変動性を低減させる降圧薬として適しているとの報告があります。季節変動は,秋から冬にかけて家庭血圧で上昇傾向にあれば,降圧薬を増量することにより抑制可能です。おそらく,この治療は冬場の心血管イベントの抑制に寄与すると思います。
私自身が行っている降圧療法は,ガイドラインに基づき,まず,早朝高血圧を治療目標とし,平均値を135/85mmHgへ低下させます。さらに,極端に高い早朝血圧のピーク値,たとえば160~180mmHg以上がしばしばみられるような変動性が大きい場合,朝投与の降圧薬を就寝前投与へ変更し,さらに難しければ,カルシウム拮抗薬を増量し,家庭血圧の最大ピーク値も160mmHg未満に下げる努力をしています。
あらゆる血圧変動は,ある一定範囲内では臓器保護を目的とした循環調節の生理的現象です。ある一定閾値を超えた変動が異常であり,循環調節の破綻を意味し,リスクにつながります。今後,その血圧変動の異常閾値を明らかにし,過度の血圧変動を特異的に抑制することにより,臓器障害が低減し,心血管イベント発生リスクが実際に低下するかを検討していく必要があります。今後のエビデンスの集積が待たれます。

【文献】


1) Kario K:Nat Rev Nephrol. 2013;9(12):726-38.
2) Kario K, et al:J Hypertens. 2010;28(7):1574-83.

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