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ナルコレプシー

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-29
本多 真 (東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野睡眠プロジェクトリーダー)
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  • ■疾患メモ

    ナルコレプシー(narcolepsy)は,睡眠覚醒中枢の機能異常が原因として想定される中枢性過眠症の代表例である。

    覚醒性オレキシン神経の消失により覚醒維持が障害され,居眠りを反復する。

    覚醒とレム睡眠状態の易移行性を反映するレム睡眠関連症状(情動脱力発作,睡眠麻痺,入眠時幻覚)がある。

    日本人では600人に1人程度と多く,典型的には思春期発症で慢性経過をたどる。

    原因不明であるが,HLA遺伝子型との強い関連から,遺伝素因に免疫賦活などの契機があって発症することが想定されている。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    過眠症状:会話中,食事中,試験中などにも眠り込むような耐えがたい眠気がある。眠気の自覚前に入眠してしまい,目覚めて気づく睡眠発作の形を取りうる。

    情動脱力発作:気持ちの高揚(大笑いや驚きなど)を契機とする随意筋の筋緊張消失がある。多くは持続1分以内と短時間で回復し,発作中の意識は保持(覚醒中に生じる)している。たとえば,膝ががくんとする,顎が落ちる,呂律が回らなくなる,などが挙げられる。

    発症後まもない小児例では,持続性筋緊張低下や不随意運動など非定型な情動脱力発作を呈しうる。たとえば,口を開き続ける,舌を突き出す,歩行不安定,などが挙げられる。

    睡眠麻痺(金縛り体験)と入眠時幻覚(寝入りばなの生々しい悪夢):入眠時レム睡眠期と一致し,典型例の7~8割に合併する。

    夜間睡眠障害:夢と現実の混乱,頻回の中途覚醒がみられる。再入眠は良い。

    半数程度に代謝異常(基礎代謝低下と肥満傾向),体温調節異常(汗かき)が随伴する。

    うつ病,不安障害も多く合併する。

    失敗体験の反復とともに,人の好い諦めやすいナルコレプトイド性格へ変化する。

    【検査所見】

    エプワース眠気尺度:主観的眠気尺度で重度の眠気が存在する。エプワース眠気尺度は,8項目4段階(0~24点)の尺度で,10~11点を過眠症状有無の閾値とする。この尺度で16点以上の眠気が存在する。

    反復睡眠潜時検査:眠気の客観指標である反復睡眠潜時検査で,平均睡眠潜時が通常3分以下と重度の眠気を示す。昼寝試行で寝ついた後,15分以内にレム睡眠が出現する入眠時レム睡眠期が複数回観察される。方法としては日中4~5回昼寝試行を行い,消灯から睡眠脳波出現までの潜時を測定する。早く寝つくほど重症で,8分以下で過眠あり,5分以下で重度の眠気ありとされる。

    ヒト主要組織抗原HLA-DQB10602遺伝子型が陽性である。

    脳脊髄液中のオレキシン濃度が異常低値(40pg/mL以下)を示す。

    情動脱力発作の現場にいた場合,一過性深部腱反射の消失確認が特異的所見である。

    【鑑別診断】

    ナルコレプシーを疑った場合,専門的な睡眠検査が必要となるため睡眠医療専門機関と連携して診断確定を行うことが望ましい。日本睡眠学会ウェブサイトにある睡眠医療入門キット*1,および睡眠医療認定機関のリスト*2が参考となる。

    *1 :[www.jssr.jp/data/kit.html]

    *2:[www.jssr.jp/data/list.html]

    過眠症状をきたす病態として,眠気をきたす薬物服用と精神神経疾患,睡眠不足症候群,概日リズムのずれが考えられ,その影響を考慮した上での眠気評価が必要である。さらに,終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で夜間睡眠の質的障害(睡眠時無呼吸症候群,周期性四肢運動障害)を除外し,日中の過眠症状が確認されると中枢性過眠症と診断される。

    ナルコレプシーは,情動脱力発作の存在から除外診断を待たず積極的に疑うことが可能である。

    中枢性過眠症である特発性過眠症(idiopathic hypersomnia:IHS)との比較を簡単に示す()。

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