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腎盂腎炎

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  • ■治療の考え方

    抗菌薬治療が中心となるが,重症例では注射薬が初期に用いられ,解熱後経口薬へ切り替えることが多い。

    単純性腎盂腎炎では短期間の治療が考えられ,注射薬による3~7日間治療に引き続き経口薬へ切り替えるswitch therapyが行われる。

    複雑性腎盂腎炎では,empiric therapyとしての薬剤選択が難しい場合が多い。通常,初期治療としては広域スペクトルの抗菌薬を使用し,原因菌が特定できたところで,原因菌に抗菌力を有する最も狭域スペクトルの抗菌薬に切り替えるde-escalationを行う。抗菌薬に耐性の細菌が原因菌となることも多いので,培養・感受性検査が重要となる。

    ■治療上の一般的注意&禁忌

    【注意】

    キノロン耐性菌,ESBL産生菌などの耐性菌が増加しているので注意が必要である。

    複雑性腎盂腎炎では,抗菌薬治療とともに基礎疾患に対する治療を同時に行う必要がある。

    【禁忌】

    抗菌薬に対するアレルギーなどを有する症例に注意を要する。

    ■典型的治療

    起炎菌の決定は培養感受性検査所見によるが,起炎菌判明前,抗菌スペクトルが広く,抗菌力に優れているカルバペネム系や第3~4世代セフェム系薬剤を投与する。

    解熱が得られた時点で,ニューキノロン系薬やセフェム系薬などの経口抗菌薬に変更する。

    薬剤感受性検査所見が判明したら,それに基づいて薬剤選択を行う。

    治療効果の判定は,症状と細菌尿の消長を治療終了1週間後に行い効果判定とし,約1カ月後に治癒判定を行うことが望ましい。

    複雑性腎盂腎炎においても,発熱を生じる急性増悪時には十分な抗菌薬治療を要する。

    1)単純性腎盂腎炎1)

    以下,病歴などから,第一選択を選ぶか,第二選択を選ぶかを症例ごとに検討する。

    【軽度~中等度】*1

    ▶第一選択:クラビット®500mg錠 (レボフロキサシン)1回1錠 1日1回(7~14日間)*2,またはシプロキサン®200mg錠(シプロフロキサシン)1回1錠 1日3回(7~14日間)*2,またはオゼックス®150mg錠(トスフロキサシン)1回1錠 1日3回(7~14日間)*2,またはグレースビット®50mg錠(シタフロキサシン)1回2錠 1日2回(7~14日間)*2

    ▶第二選択:セフジトレンピボキシル®100mg錠(セフジトレンピボキシル)1回2錠 1日3回(14日間),またはセフカペンピボキシル®塩酸塩75mg錠(セフカペンピボキシル)1回2錠 1日3回(14日間),またはセフポドキシムプロキセチル®100mg錠(セフポドキシムプロキセチル)1回2錠 1日2回(14日間)

    経口治療開始時にのみone-time intravenous agentとしてセフトリアキソン,キノロン系薬,アミノグリコシド系薬などの点滴静注も推奨される。

    【重度】*1,3

    ▶第一選択:ハロスポア®/パンスポリン®静注用(セフォチアム)1回1~2g 1日3~4回*4(点滴静注),またはロセフィン®静注用(セフトリアキソン) 1回1~2g 1日1~2回(点滴静注),またはモダシン®静注用(セフタジジム)1回1~2g 1日3回*4(点滴静注)

    ▶第二選択:アミカシン®硫酸塩注(アミカシン)1回200~400mg 1日1回*5(筋注または点滴静注),またはパシル®/パズクロス®点滴静注液(パズフロキサシン)1回1g 1日2回*6(点滴静注),またはゾシン®静注用(タゾバクタム/ピペラシリン)1回4.5g 1日3回(点滴静注),またはメロペン®点滴用(メロペネム) 1回1g 1日3回(点滴静注)

    *1:empiric therapyで3日目も無効なら,尿培養・薬剤感受性試験によりdefinitive therapyに切り替える

    *2:地域の単純性UTI分離Escherichia coliのキノロン系薬耐性率が20%以上の場合,および患者に6カ月以内の抗菌薬投与歴がある場合は,第二選択薬が推奨される

    *3:解熱など症状寛解後24時間をめどに経口抗菌薬に切り替え,外来治療とし合計14日間投与する

    *4:2g・3回以上は保険適用外

    *5:アミノグリコシド系薬には,ペニシリン系薬を併用してもよい

    *6:保険適用は敗血症合併症例に限る

    2)複雑性腎盂腎炎(カテーテル非留置症例)1)

    以下,病歴などから,第一選択を選ぶか,第二選択を選ぶかを症例ごとに検討する。

    【軽~中等度】*1

    ▶第一選択:クラビット®500mg錠 (レボフロキサシン)1回1錠 1日1回(7~14日間)*2,またはシプロキサン®200mg錠(シプロフロキサシン)1回1錠 1日3回(7~14日間)*2,またはオゼックス®150mg錠(トスフロキサシン)1回1錠 1日3回(7~14日間)*2,またはグレースビット®50mg錠(シタフロキサシン)1回2錠 1日2回(7~14日間)*2

    ▶第二選択:セフジトレンピボキシル®100mg錠(セフジトレンピボキシル)1回2錠 1日3回(14日間),またはセフカペンピボキシル®塩酸塩75mg錠(セフカペンピボキシル)1回2錠 1日3回(14日間),またはセフポドキシムプロキセチル®100mg錠(セフポドキシムプロキセチル)1回2錠 1日2回(14日間)

    経口治療開始時にのみone-time intravenous agentとしてセフトリアキソン,キノロン系薬,アミノグリコシド系薬などの点滴静注も推奨される。

    【重度】*1,3

    ▶第一選択:モダシン®静注用(セフタジジム)1回1~2g 1日3回*4(点滴静注),またはロセフィン®静注用(セフトリアキソン)1回1~2g 1日1~2回(点滴静注),またはゾシン®静注用(タゾバクタム/ピペラシリン)1回4.5g 1日3回*4(点滴静注)

    ▶第二選択:アミカシン®硫酸塩注(アミカシン)1回200~400mg 1日1回*5(筋注または点滴静注),またはパシル®/パズクロス®点滴静注液(パズフロキサシン)1回1g 1日2回*6(点滴静注),または注射用マキシピーム®(セフェピム)1回1~2g 1日3回(点滴静注),またはチエナム®点滴静注用(イミペネム/シラスタチン)1回0.5~1g 1日2~3回(点滴静注),またはメロペン®点滴用(メロペネム)1回0.5~1g 1日2~3回(点滴静注),またはフィニバックス®点滴静注用(ドリペネム)1回0.5~1g 1日2~3回(点滴静注)

    *1:empiric therapyで3日目無効なら,尿培養・薬剤感受性試験によりdefinitive therapyに切り替える

    *2:地域の単純性UTI分離E. coliのキノロン系薬耐性率が20%以上の場合,および患者に6カ月以内の抗菌薬投与歴がある場合は,第二選択薬が推奨される

    *3:症状寛解後24時間をめどに経口抗菌薬に切り替え,外来治療とし合計14日間投与する

    *4:2g・3回以上は保険適用外

    *5:アミノグリコシド系薬には,ペニシリン系薬を併用してもよい

    *6:保険適用は敗血症合併症例に限る

    ■偶発症・合併症への対応

    膿腎症,腎膿瘍,腎周囲膿瘍などの重症な腎感染症へ進展し,菌血症・敗血症へ移行することも少なくない。

    緊急の尿管ステント挿入や腎瘻術,感染巣へのドレナージなどが必要となることも多く,泌尿器科専門医への紹介を早期に行うことが重要である。

    ■高齢者への対応

    高齢者の腎盂腎炎は,そのほとんどが複雑性であり,基礎疾患の正確な把握とそのコントロールが必要となる。また高齢者では抗菌薬の投与歴が多く,腎盂腎炎の原因菌が抗菌薬に耐性のことが少なくない。したがって,抗菌薬の投与歴や腎盂腎炎の治療歴の聴取とともに,尿培養薬剤感受性検査を要する。

    ■ケアおよび在宅でのポイント

    発熱時は抗菌薬の注射薬が投与されるので,入院治療のことが多い。特に高齢者では高熱があれば入院治療とする。

    在宅では尿路感染症の予防が重要であり,適度な水分摂取により,尿量を一定程度保つことが必要となる。

    局所を清潔に保ち,細菌の尿路への侵入を極力防止する。特におむつを使用していると不潔になりやすいので,適切なおむつ交換を行う。

    尿路へのカテーテルの留置は大きなリスクファクターである。カテーテルの閉塞や屈曲による尿流の途絶がないようカテーテルを管理する。

    ■文献・参考資料

    【文献】

    1) JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会, 編:JAID/JSC感染症治療ガイド2014. ライフサイエンス出版, 2014.

    【執筆者】松本哲朗(産業医科大学名誉教授)

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