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トキソカラ症(イヌ回虫症・ネコ回虫症)

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-06-19
中村(内山)ふくみ (荏原病院感染症内科医長)
赤尾信明 (東京医科歯科大学国際環境寄生虫病学分野准教授)
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  • ■疾患メモ

    トキソカラ属の回虫であるイヌ回虫(Toxocara canis)とネコ回虫(T. cati)が人に感染して起こる。

    ヒト体内に侵入したイヌ回虫やネコ回虫は,幼虫のままでヒト体内を移行し様々な病害を引き起こす(幼虫移行症)。

    ヒトへの感染は,環境中に存在する幼虫包蔵卵の経口摂取と,ウシ,トリなどの待機宿主の肝や筋肉を生で摂取することによる。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    トキソカラ症は内臓型,眼・中枢神経型,潜在型の病型にわけられる。また,これらの典型的な病型のほか,多彩な病態が存在する(非典型例)。非典型例はトキソカラ幼虫の直接浸潤とアレルギー様あるいは自己免疫反応が原因と考えられている。

    〈内臓型〉

    ヒトに摂取されたトキソカラ幼虫は,腸管から血行性に全身諸臓器に散布される。内臓型トキソカラ症では,肺病変と肝病変が主である。

    肺病変は内臓型トキソカラ症の20~85%にみられ,咳,喀痰,胸痛,呼吸困難,喘鳴など非特異的な呼吸器症状がみられる。無症状の症例も存在する。

    肝病変は抗トキソカラ抗体陽性患者の35~68%にみられる。無症状の症例と腹部不快感,腹痛,発熱,倦怠感など非特異的な症状が報告されている。

    〈眼・中枢神経型〉

    眼トキソカラ症の主な症状は,飛蚊症,眼痛,眼の充血,羞明である。

    ほとんどが片眼発症であり,両眼発症は40%未満と少ない。

    中枢神経型トキソカラ症は,稀な病態である。好酸球性髄膜炎,脳炎,髄膜脳炎,血管炎,脊髄炎の報告がある。

    〈潜在型〉

    抗トキソカラ抗体陽性かつ軽微な症状(慢性的な脱力感,眼瞼結膜や皮膚のそう痒感といったアレルギー様症状,びまん性筋痛,血管神経性浮腫,小児の睡眠障害や行動異常など)を伴うものである。

    〈非典型例〉

    皮膚病変(蕁麻疹と結節性病変),心筋炎,血管炎,アレルギー性紫斑病,リウマチ様症状などが報告されている。

    【検査所見】

    診断は,臨床所見(症状,画像所見,末梢血好酸球増多やIgE上昇),患者背景(食習慣,ペット飼育)と免疫診断の結果を合わせて総合的に判断する。

    〈内臓型〉

    末梢血好酸球増多。

    肺病変は,胸部CT上の多発小結節影±GGO halo,focal GGOが多い。

    肝病変は,腹部超音波検査で肝実質内に多発する小さな低エコー域として描出される。腹部CTでは,直径1.0~1.5cm程度の多発小結節が楕円形の低吸収域として描出される。造影CTは,門脈相で観察するのがよく,病変辺縁の造影効果に乏しい。

    〈眼・中枢神経型〉

    眼トキソカラ症は,病変部位によって周辺部腫瘤型,後極部腫瘤型,眼内炎型に分類される。必ずしも末梢血好酸球増多を伴わない。

    中枢神経型は,臨床所見,疫学的背景(食習慣,ペット飼育),末梢血中あるいは髄液中の好酸球増加と抗トキソカラ抗体の存在,画像所見によって診断される。

    〈潜在型〉

    好酸球増多の程度は低い(1500/μL)か,正常範囲内である。

    〈非典型例〉

    末梢血好酸球増多,抗トキソカラ抗体陽性。

    トキソカラ症の典型的な症状に当てはまらない場合でも,ウシ,トリの生食歴があれば免疫診断を考慮する。

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