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中東呼吸器症候群(MERS)

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
中島一敏 (大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授)
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  • ■疾患メモ

    2012年9月に発見された新種のコロナウイルス(Middle East respiratory syndrome -coronavirus:MERS-CoV)の感染によって起こる急性呼吸器感染症である。重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)の原因ウイルスであるSARS-CoVと同じβコロナウイルス属の新種である。主にサウジアラビアを中心とする中東で発生し,2015年11月13日現在,世界で579人の死亡を含む1618人の患者が世界保健機関(WHO)に報告されている(致死率36%)。世界26カ国で患者発生が認められているが,中東以外の患者はすべて中東への渡航歴があるか,その接触者である。

    中東以外で発生した輸入患者の約75%では,2次感染を認めていない。2次感染を認めた場合でも,韓国以外での2次感染者は5人以下であった。感染性の指標とされる基本再生産数(Ro)は1未満と報告されており,ヒト-ヒト感染の感染性は必ずしも高くはないが,数十人の2次感染者が発生することもあり,感染予防策を徹底することが必要となる。2015年5月に発生した韓国でのアウトブレイクでは,1人の輸入患者を起点に複数の医療機関で感染拡大が起こり,総症例数186人(死亡37人,致死率20%)のアウトブレイクとなった。医療従事者の感染者は36人(20%)に及んだ。

    人の感染源,感染経路は完全には解明されていないが,中東のヒトコブラクダでウイルスが維持されており,ヒトの感染源となっていると考えられている。中東で人と密接な関わりをもつヒトコブラクダで感染が持続していることから,今後もMERSは発生し続けることが予想され,中長期にわたる予防と発生時対応に対する備えが必要である。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    潜伏期間は2~14日(中央値5日)。

    臨床経過は,無症状,軽度のインフルエンザ様症状のみの場合から,致死的な呼吸不全に至るまで様々である。

    典型的には,発熱,咳嗽,悪寒,咽頭痛,筋肉痛,関節痛等で発症し,その後1週以内に急速に肺炎へと進展する。

    約1/4の症例で嘔吐,下痢等の消化器症状を認める。

    高齢者や基礎疾患(糖尿病,腎不全,悪性腫瘍など)を有している者は重症化しやすい。

    【検査所見】

    白血球減少(リンパ球減少)を認める。

    重症患者においては,凝固能異常,血清クレアチニン値,LDH,肝逸脱酵素の上昇を認める。

    胸部X線所見は,ウイルス性肺炎,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)に合致する,一側性もしくは両側性の浸潤影やスリガラス陰影など多彩な所見を呈する。少量の胸水を認めることもある。

    確定診断は,臨床検体(鼻腔吸引液,鼻咽頭スワブ,喀痰,気道吸引液,肺胞洗浄液など)からのSARS-CoVの分離やPCR法によるウイルス遺伝子の検出によって行う。ウイルス量が多く検出率も高いため,喀痰,気道吸引液,肺胞洗浄液などの下気道由来検体が望ましい。検査は,全国の地方衛生研究所,国立感染症研究所で行われる。

    WHOおよび米国疾病管理センター(CDC)は,病原性の強さから,MERS-CoVを取り扱う場合はBSL3実験室で行うことを推奨しており,国立感染症研究所では,MERS-CoVをBSL3に分類している。

    MERS-CoVは,(+)一本鎖RNAウイルスであるコロナウイルス科βコロナウイルス属の一種で,エンベロープを有し,エタノールや次亜塩素酸など,様々な消毒薬に感受性がある。

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