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急性アルコール中毒

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
千代孝夫 (野崎徳洲会病院救急科センター長)
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  • ■治療の考え方

    アルコール類には,エタノール(エチルアルコール),メタノール,エチレングリコールがあるが,一般的にはエタノールによるものを急性アルコール中毒と呼ぶ。なお,メタノールは固形燃料,携帯燃料,溶剤などに含まれ,メタノール中毒重症では,失明,痙攣,昏睡を呈する。

    エタノールによる急性アルコール中毒は減少傾向にあるものの,東京消防庁管内だけで毎年1万件の患者搬送がある1)

    原因のほとんどは大量の飲酒によるものであるが,小児における化粧水などの誤食例や保護者による人工乳へのアルコールの誤注入例2)もある。

    アルコール酩酊状態から,転倒や墜落による外傷,交通事故,溺水,低体温症,凍死が起こる場合が多い。外傷患者のうち14%が飲酒中であったという報告や,アルコールが原因でERに搬入された患者305人のうち117人(38%)が外傷を合併していたという報告がある。また,特殊なものとしてウェルニッケ脳症の発生を念頭に置く。

    ■病歴聴取のポイント

    何をどれくらい飲んだか:エタノールは分子量46,分布容積0.54±0.05L/kgで,酒類をはじめとする様々な飲料,溶剤,防腐剤,塗料などの工業用品に含まれる。また薬効成分の吸収を促進するため,香水,整髪料,化粧水にも含まれている。医療用としても,殺菌,消毒剤に用いられる。特殊なものとして,ドリンク剤が挙げられる。これらの中にも相当量(500mg/dL等)が含有されている。各種アルコール飲料のエタノール濃度はおおよそ,ビール5%,清酒15%,ウイスキー,ブランデー35%,ラム酒40%(~75%)である。

    飲酒継続時間:アルコールは消化管から速やかに吸収され(ピーク濃度30~120分),変化を受けずに血中に出現する。腎などでも代謝されるが,90%は肝で代謝される。日本人(モンゴロイド)は遺伝的に代謝能力の弱いアセトアルデヒド脱水素酵素を持つものが多く(45%),アルコール摂取量が多すぎると分解処理が追いつかない。アセトアルデヒドの毒性(血圧の上昇,低下,頭痛,動悸,吐気等とともに,細胞毒性そのものもある)やアルコール自体の作用によって各種の臓器への障害が発生する。通常100~125mg/kg/時で消失するが,アルコールの処理を行うアセトアルデヒド脱水素酵素Ⅱ型の量は個人差が激しいため,その消失速度には大きな差がある。24時間で代謝しうる最大量は約500gである。

    血中濃度への関与因子:摂取量,摂取速度,含水量,胃内容物の有無(特に脂肪分),アルコール濃度,代謝速度に影響される。バルビツール系薬や抗うつ薬等の中枢神経抑制剤は相加的な作用を持つため,症状を重篤化させる。

    ■バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    循環:脱水や血管拡張,およびアセトアルデヒドの毒性により,しばしば血圧低下をきたす。

    意識:通常の意識レベル低下のほかに,失調,痙攣,興奮,不穏がある。

    呼吸:呼吸抑制から呼吸麻痺,舌根沈下,および誤嚥による気道閉塞がある。

    体温:血管拡張,体温調整中枢の抑制などによる低体温の発生がある。

    【身体診察】

    外傷の合併:重度の頭蓋内占拠性病変や,腹腔内出血から四肢骨折まで,見逃さないように全身を注意深く視察する。コンパートメント症候群の有無にも注意する。

    急性心筋梗塞(AMI)や不整脈の発生の有無を確認する。

    誤嚥の有無を確認する。

    消化管出血や,マロリー・ワイス症候群の発生の有無を確認する。

    低血糖の発生の有無を確認する。

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