【現病歴】秋のある日,20時に前日のカレーを食べ,嘔吐後に右臍下付近の痛みが出現。吐物はカレーだった。腹痛は20分後にピークアウトしたが,ERを受診して腸炎の疑いで整腸剤処方のうえ帰宅。23時頃,右臍下部痛が続くため再診。
<追加の情報>
腹痛は体動や歩行で悪化しない,波のない疼くような痛みで,触ってもあまり痛くない。右臍下付近の安静時痛。
【既往歴】完全大血管転位,15歳時に弁置換。不整脈で心肺機能停止(CPA)になり植込み型除細動器(ICD)。
【内服薬】カルベジロール20mg,エナラプリル10mg,ワルファリン1.5mg
【身体情報】181cm,110kg,BMI 33.6
【バイタルサイン】BT 36.6℃,BP 121/97mmHg,HR 65/min,RR 16/min,SpO2 96%(RA),意識清明
【初療での神経学的所見】腹部:平坦,軟。右下腹部に自発痛あるも圧痛,反跳痛,筋性防御,McBurney圧痛点なし。
キーワード
・突然に近い発症
・嘔吐後・波がない・触っても痛くない安静時右臍下部痛
・20分ほどでピークアウト
・圧痛なし
A. 胆囊炎
B. 尿管結石
C. 虫垂炎
D. 腎梗塞
E. ウェルシュ菌感染症
▶A. 通常は右季肋部痛である。
▶B. 比較的突然発症は合う。上部尿路に嵌頓した場合は持続痛になりうるが,通常は間欠痛である。
▶C. わずかではあるが嘔吐が先行している点で可能性が下がり,圧痛もほしい。
▶D. 稀な疾患で若年ではあるが,リスクがあり,突然に近い発症からありうる。
▶E. 前日のカレーを食べた後であるが,潜伏期間は8~24時間のため嘔吐が先行したとしても発症が早すぎであり,下痢もない。内臓痛であり局在性もはっきりしないはず。
まとめ
B,Dの関連痛として右腹部前面に痛みが出ることがある。Bの痛みは,20分でピークアウトは尿管結石でもありうるが,通常は60~90分持続する。D以外の疾患が20分で痛みの峠を越えることは考えにくい。
尿管結石,腎梗塞が鑑別に残るため,肋骨脊柱角(CVA)圧痛を試みたところ陽性であった。検尿で腎梗塞は尿蛋白陽性35%,尿潜血は50%で陽性となるため1),血液検査では両疾患の鑑別に有用なのはLDHと思われる2)。画像では単純CTで結石を除外し,造影CTで確定に迫る。
【検尿】尿蛋白2+,尿潜血2+
【血算】WBC 14500μL(Nt 82.3%,Eos 0.1%),Hb 15.7g/dL,Plt 16.7万/μL
【凝固】PT-INR 1.48
【生化学】CRP 29.19mg/dL,AST 124U/L,ALT 148IU/L,LDH 1169IU/L,ALP 281IU/L,γGTP 101IU/L,BUN 16mg/dL,Cre 0.96mg/dL,Na 139mEq/L,K 3.9mEq/L,Cl 104mEq/L
【経過】尿潜血2+であったが,LDH/AST>4は,肝障害では説明ができないLDH高値を認め,造影CTでは右腎の楔状の造影欠損像を認めた。
【考察】腎からの内臓神経はTh10~12の交感神経節に入るため,腹部前面への関連痛はありうる。腎梗塞の頻度はER室で0.013%と稀であり3),平均発症年齢は72歳,基礎に心房細動70%,心疾患73%とされる3)。LDHは90.5%(380〜1417IU/L)で上昇し,診断に有用とされる2)。確定診断は,dynamic造影CTとされる。本例は,若年であったが心疾患がありPT-INRも不十分であったことが発症に関与したと思われる。
【文献】
1) Antopolsky M, et al:Am J Emerg Med. 2012;30 (7):1055-60.
2) Bourgault M, et al:Clin J Am Soc Nephrol. 2013;8(3):392-8.
3) Nagasawa T, et al:Clin Exp Nephrol. 2016;20 (3):411–5.
Take Home Message
突然発症の局在性のある腹痛,心房細動・弁膜症の既往,LDH上昇,水腎がない場合は,頻度は稀であるが腎梗塞を鑑別に挙げる。