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終末期がん患者の輸液療法に関する ガイドライン2013年版 [学術論文]

No.4702 (2014年06月07日発行) P.26

二村昭彦 (藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座)

東口髙志 (藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-04-03

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  • 本ガイドラインは,がん悪液質が生体に悪影響を及ぼすと推定される生命予後1カ月以内の終末期がん患者を対象とした輸液療法を中心に取り扱っている。輸液を施行するにあたり,患者・家族の価値観,意向,個別性を尊重することを基本的概念とし,さらにがんによる特異的な病態や代謝状態をふまえ,水分量だけでなくカロリーやアミノ酸の投与量についても推奨に併記されている。最後に,輸液が終末期がん患者の生活の質(QOL)を改善するのかという臨床疑問にも触れる。

    1. ガイドライン作成の経緯と目的

    2002年のWHOの緩和ケアに関する概念の変換や2006年のがん対策基本法の策定により,わが国のがん患者に対する緩和ケアは,終末期に限定されたものから,がんと診断されたときから実施すべきものとして,その概念と取り組みの方向性が大きく変更された。その中で,今,経口摂取の状況と栄養状態ならびに生活の質(QOL)との関係,さらには輸液療法の適正実施と延命との関連など,終末期がん患者における輸液療法に大きな注目が集まっている。
    このような大きな流れの中で,このたび『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン2013年版』(編集:日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会,輸液ガイドライン改訂Working Practitioner Group員長:東口髙志)が各領域の専門家の努力によって約3年半の年月を経て発刊された1)。本書は,2007年に安達 勇前部会長のもと,厚生労働科学研究費の助成による研究班によって発刊された『終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン(第1版)』2)の改訂版に当たる。
    終末期における輸液療法は,医療従事者,患者・家族,双方の価値観や心情的側面に大きく左右される部分があり,いまだ施設間の較差が大きい治療法である。したがって,終末期がん患者の輸液療法に関するガイドラインの作成は,より標準的な治療法や方針を明確にすることにつながり,質の高い治療を望む多くの患者・家族にとって大きな利益をもたらすものと考えられる。ガイドラインの作成過程においては,臨床疑問を設定し,それに該当する文献を吟味し,エビデンスに基づいた推奨を導き出していくことが大原則になる。しかし,緩和領域においては大規模な無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が実施されにくい特有の事情があり,加えて,悪液質を含む終末期がん患者の複雑多岐な病態は,いまだ解明途上で一定の結論には至っていない。
    今回,2011年までに公表された終末期がん患者の輸液,悪液質に関する著書,論文,そのほかのガイドラインを検索し,デルファイ法とコンセンサスミーティングを繰り返し,妥当性の検証が行われた結果,最終評価(AGREE評価表による評価)として,本ガイドラインが診療に用いられることを強く推奨すると評価されるに至った。

    残り5,332文字あります

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