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(3)高齢者における栄養管理─ギアチェンジの考え方 [特集:過栄養と低栄養から読み解く 高齢者の栄養管理]

No.4797 (2016年04月02日発行) P.41

葛谷雅文 (名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-26

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  • 高齢者と成人では栄養に関するとらえ方を変換する必要がある

    栄養指導は年齢を考慮する必要がある

    栄養は健康寿命を規定している重要な因子である

    栄養管理のギアチェンジの概念が重要である

    1. 高齢者の栄養状態に関連する特殊性(表1)

    栄養に関連する高齢者の特殊性につき,まずは述べたいと思う。高齢者は基盤に明らかに老化が存在し,各臓器の恒常性が低下し,各種ストレス,環境の変化に弱く,疾病発症しやすく,障害を受けやすい特徴を持つ。身体組成の特徴としては,総じて臓器の萎縮を伴い,全体に体重は減少し,身長も短縮する。骨格筋は減少し,代わりに脂肪,特に内臓脂肪が蓄積しやすく,体内水分,特に細胞内水分量は低下する。除脂肪組織が減少することから当然基礎代謝量は低下する。味覚,嗅覚は低下し,総じて食欲自体が低下する。一方で,成人より個人差が大きく,暦年齢で身体の加齢状態を推し量ることは難しい。

    超高齢社会の中で高齢者の生活状況は以前とは大きく変化し,2013年の報告では65歳以上の高齢者のいる世帯で単独世帯は25.6%,夫婦のみの世帯が31.1%にも及び,今後もこの割合は増加することが予測され,脆弱な世帯が増えることが危惧される。この高齢者だけの生活環境は栄養を考えるときに大変重要な要素である。

    2. 過栄養対策か低栄養対策か

    栄養障害としては,まず生活習慣病,特に肥満を基盤とした糖尿病,メタボリックシンドローム(MetS),脂質異常症などが頭に浮かぶ。これに関する啓発は成人病対策,生活習慣病対策と引き継がれ,2008年度からは40~74歳の公的医療保険加入者全員を対象とした保健制度である特定健康診査,いわゆるメタボ健診により,MetSならびに過栄養対策が進んだ。
    一方,地域支援事業の一部として行われる介護予防事業であり,今後要介護・要支援状態に至る恐れがあると考えられる,65歳以上の高齢者を対象として実施するサービス(二次予防事業)である,体重減少,体格指数(BMI)低値に対して教室参加を誘導し,栄養改善(低栄養予防)の啓発を行う事業が同時に行われた。メタボ健診と,この介護予防事業が重なる年齢,すなわち65〜74歳の前期高齢者はMetSで過栄養是正をするのか,低栄養是正をするのか一部混乱が生じた。
    もちろん,医師が患者を目の前にしてどちらを選択すべきかで迷う場面は少ないと思われるが,全体として前期高齢者がMetSに注意するために減量すべきか,または介護予防のために体重減少を予防すべきかの,どちらの方向に向かうべきかの混乱があることは事実であろう。

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