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(3)抗癌剤投与法の実際─投与量調節を中心に [特集:高齢者のための抗癌剤適正使用]

No.4775 (2015年10月31日発行) P.32

野村久祥 (国立がん研究センター東病院薬剤部主任)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-09

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  • 高齢者は非高齢者に比べて,薬物動態と薬力学の加齢変化があるため薬物有害事象が多いと言われている。しかし,performance status不良や臓器機能が低下している場合を除き,高齢というだけで減量することはない

    腎機能低下高齢者では,薬剤の排泄と代謝が遅延し,有害事象の増加が予想されるため,減量などが必要である

    高齢者の場合,肝血流量の低下ならびに肝重量の減少により肝代謝能力の低下が予想され,肝機能に合わせた投与量設計が必要である

    高齢者は併存疾患が多いため内服する薬剤も多い。そのため,抗癌剤との相互作用を起こす薬剤もあり,注意が必要である

    1. 高齢者に対する抗癌剤投与法の実際

    高齢者では,非高齢者に比べて薬物有害事象が多いと言われている1)。その理由として,薬物動態と薬力学の加齢変化が挙げられる。薬物は,吸収,分布,代謝,排泄といった流れで体内を回る。加齢による生理機能の変化に伴って,細胞内水分減少による薬物分布の減少,肝機能低下に伴う薬物代謝の低下,腎機能低下による排泄の遅延により,抗癌剤の有害事象が多く出現することが予想される。しかし,多くの疾患ではperformance status(PS)不良であることや臓器機能の低下により薬物を減量することがあっても,高齢というだけで減量することはなく,一般的に非高齢者と同様に治療されることが多い。
    いくつかの後ろ向き試験で70歳以上の高齢者に化学療法を行った場合,臓器機能が正常であれば毒性が重症化あるいは遷延することはないと報告されている2) 3) 。臨床試験においてはPS良好,臓器機能が正常な患者が多く,一般化することができないといった見解もあるが,実臨床では,高齢といった理由でレジメンの変更を考慮する場合がある(表1)。年齢だけではなく,特集②で概説された評価ツールでの投与決定などが重要であると考えられている。


    高齢によって肝機能や腎機能低下が認められるため,各薬剤を減量する割合は薬剤ごとに決められている。その際,各薬剤の添付文書やインタビューフォームを見て調べる必要がある。しかし,わが国の添付文書の多くには「高齢者では腎機能などの生理機能が低下していることが多く,排泄遅延により副作用が現れやすいので,腎機能検査値に十分に注意し,患者の状態を観察しながら慎重に投与すること」などと,あいまいな表現で記載され,実際に何%の減量が必要なのか,など具体的な数字が記載されていることは少ない。インタビューフォームにおいても同様であることが多い。このような記載の仕方では,臨床現場で投与量を決定することは難しい状況である。わが国の添付文書に記載がない場合でも,海外の添付文書には具体的な投与量が記載されている場合もある。例として米国では,最新の添付文書が日々更新され,定型的な形で添付文書の「Dosage and Administration」の項目に,special populationとして記載されていることが多い(図1・2)。



    また高齢者は合併症が多く,内服薬を多数併用している場合がある。そのため,抗癌剤との相互作用も確認することが重要である。本稿では,高齢により臓器機能が低下した場合の投与法の実際と注意すべき相互作用,内服抗癌剤の効果を十分に発揮させるためのアドヒアランスに関する注意点を記載する。

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