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(1)高齢者がん薬物療法の基本─多剤併用,副作用,代替薬 [特集:高齢者のための抗癌剤適正使用]

No.4775 (2015年10月31日発行) P.18

茶屋原菜穂子 (神戸大学医学部附属病院腫瘍・血液内科)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-09

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  • 高齢がん患者は急速に増加しているが,高齢者に対する標準治療は確立されていない

    加齢に伴い薬物代謝能,臓器予備能が低下するが,その変化は個人差が大きく,併存症を含め個々に評価する必要がある

    高齢者は化学療法の副作用が強く現れる可能性があり,特に心毒性,骨髄抑制,粘膜炎,腎毒性,神経障害などに注意が必要である

    全身状態良好な高齢者には非高齢者と同様の標準治療が検討されるが,全身状態に応じ投与量の減量や毒性の少ない治療も選択されうる

    1. 高齢化とがん患者の増加

    わが国の高齢化は急速に進行しており,2014年には総人口に対する65歳以上の高齢者の占める割合は26.0%に達し,25年には約30%になると推測されている。がん統計によるとがんの罹患率は50歳代,死亡率は60歳代から上昇し,高齢になるほど高くなり,2011年のがん罹患者の68.9%,13年のがん死亡者の82.5%が65歳以上の高齢者である1)。すなわち,がん薬物療法の対象者としては高齢者が圧倒的に多く,今後さらに増え続けることが想定されている。しかしながら,これまでの臨床試験の多くは非高齢者を対象として行われており,高齢者に対する標準治療は確立されていないのが現状である。

    2. 高齢者のがん薬物療法における注意点

    加齢に伴い様々な生理機能が変化する。表1に示すように薬物代謝における吸収,分布,代謝,排泄の各過程において変化が認められ,その結果,若年者に比べ薬物代謝能が低下する。さらに,臓器予備能も低下し,一般に化学療法などのストレス曝露に対する代償機能が高齢者では低下している。
    腎機能は一般に加齢とともに低下する。その結果,多くの薬剤の排泄が遅延し,化学療法の毒性が増強する。筋肉量の低下によりクレアチニン生成量が減少するため,高齢者では血清クレアチニン濃度は腎機能の指標になりにくく,クレアチニンクリアランスの測定は重要である。また,年齢とともに肝血流量や肝細胞数も減少する。加齢により骨髄中の血液幹細胞の減少もみられる。
    さらに,がん以外の併存症を持つことが多く,その評価は重要である。それに伴い多数の薬剤を内服していることも多く,薬物相互作用にも注意が必要である。特にチトクロームP450系に作用しうる薬剤には注意を要する。
    これらの臓器機能低下や併存症は個人差が大きく,必ずしも暦年齢が臓器機能低下と相関するわけではない。暦年齢のみにとらわれず,臓器機能や併存症の重症度に着目し,治療導入の際にがんとしての予後と併存症の予後を併せて検討する必要がある。

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